研究課題/領域番号 |
18K03510
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
樋口 雅彦 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (10292202)
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研究分担者 |
樋口 克彦 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (20325145)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁場下超伝導体 / 超伝導電流スピン密度汎関数理論 / ギャップ方程式 / 超伝導臨界磁場 / 超伝導転移温度 / 磁場侵入長 / 超伝導対密度汎関数理論 / エントロピー汎関数 |
研究実績の概要 |
われわれは第一原理超伝導理論として2つの理論を提案してきた。「超伝導電流スピン密度汎関数理論」(JPSJ 86, 104705 (2017))と「粒子数揺らぎを予言する超伝導対密度汎関数理論」(JPSJ 86, 064704 (2017))である。それぞれについて令和2年度の研究成果を述べる。 (1)最近われわれは「超伝導電流スピン密度汎関数理論」を超伝導混合状態にも適用できる形に拡張を進めてきた。具体的には、昨年度から本年度にかけて、交換相関エネルギー汎関数の具体的な近似形を提案し、「磁場下超伝導体のギャップ方程式」を導出した(PRB 102, 014515 (2020))。そしてさらに、このギャップ方程式を金属アルミニウムに適用し、磁場下アルミニウムの超伝導ギャップの磁場依存性および温度依存性を数値的に明らかにした(PRB 102, 014515 (2020))。超伝導臨界磁場や転移温度など実験事実はおおむね説明できるものではあったが、磁場侵入長が実験に比べ大きく見積もられるという問題点も明らかになった。次年度の課題である。 (2)「粒子数揺らぎを予言する超伝導対密度汎関数理論」を実際の物質へ適用するためには、①運動エネルギー汎関数、②エントロピー汎関数の近似形の開発が必須である。①に関しては、ノーマル状態の対密度汎関数理論でわれわれが開発をしてきた近似形(学術雑誌に数編出版済み)を援用できる。本年度は②の近似形の開発を行った。エントロピー表式に含まれるエネルギースペクトルに対密度依存性が含まれるという近似形である(JPS Conf. 30, 011066 (2020))。この理論をさらに磁場を含む形式に拡張することが、本研究課題の研究目的3に対する課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに「超伝導電流スピン密度汎関数理論」の理論的な枠組みはほぼ完成し、さらに数値計算にも着手していた。本年度は、その数値計算の結果が大部分得られて、理論の有効性や課題などが明らかになった(研究目的1)。本研究成果は、磁場下超伝導体の性質を第一原理的に解き明かす最初のものであり、学術的意義は高いと思われる(PRB 102, 014515 (2020))。 さらに、磁場下超伝導体のdHvA効果の解明のために(研究目的3)、当初の研究計画にはなかった「超伝導対密度汎関数理論」の開発も前進した(JPS Conf. 30, 011066 (2020))。次年度以降の数値計算の結果次第では磁場下超伝導体の対密度の様相(粒子数揺らぎや電子相関の様相)が明らかになる。その第一歩を本年度は踏み出すことができた。 以上より、令和2年度の研究計画はおおむね順調に遂行されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策を課題ごとに箇条書きにする: (1)令和2年度までにほぼ完成をしていた「超伝導電流スピン密度汎関数理論」を金属アルミニウムに適用した際に、磁場侵入長が実験に比べ大きく見積もられるという理論的欠点が見出されていた。これを改善する試みとして、電子間引力相互作用の磁場依存性を「超伝導電流スピン密度汎関数理論」に取り込む予定である。超伝導dHvA効果の第一原理的記述を目指すうえで、磁場侵入長の実験との定量的な一致は不可欠である。 (2)ギャップのある物質のdHvA効果の研究を推進する。具体的には、既に開発済みのMFRTB法(研究目的2)を用いて、ギャップのある物質、例えばノーマル状態のシリコン結晶のdHvA効果を考察する。この研究は、上記シリコン結晶のようにギャップ構造を持つ超伝導状態のdHvA効果の解明の予備的かつ補足的な研究になり得る。 (3)磁場下超伝導体のdHvA効果の解明のために(研究目的3)、「超伝導電流スピン密度汎関数理論」(上記(1)の改良を行った理論)を第2種超伝導体へ適用する。このときポイントとなるのは、超伝導混合状態の様相である。磁場を変化させたときの磁束の侵入(空間構造および密度)と自由エネルギーの変化を第一原理的に記述し、超伝導dHvA効果の解明につなげる予定である。
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