研究実績の概要 |
(1)昨年度までに開発した「超伝導電流スピン密度汎関数理論」は,マイスナー効果を記述できる唯一の第一原理計算理論である。今年度は,電子間に働く引力相互作用の磁場依存性を考慮に入れ,本理論を磁場下アルミニウム,スズ,インジウムに適用した(J. Phys.: Condens. Matter 33, 435602 (2021))。超伝導ギャップの磁場と温度依存性は,それぞれの場合でよく再現されることが確認された。超伝導ギャップが磁場とともに減少する原因は,電子間に働く引力相互作用が磁場とともに減少ためであることを明らかにした(J. Phys.: Condens. Matter 33, 435602 (2021))。 (2)「粒子数揺らぎを予言する超伝導対密度汎関数理論」(JPSJ 86, 064704 (2017))では、無限に距離を引き離した際の物理量の相関がゼロとなる、いわゆるクラスター分解原理の成立を前提としてきた。超伝導状態でクラスター分解原理が成り立つとすると、超伝導状態は粒子数が揺らがざるを得ない。このことを検証するための第一歩として、BCS理論でクラスター分解原理が成立していることを初めて確認した(J. Phys. Commun.5, 095003 (2021))。さらにこの事実を用いて、フェルミ粒子系のBECで定義されるクーパー対(最大geminal)の対称性やコヒーレンス長を明らかにした(J. Phys. Commun.5, 095003 (2021)。 (3) ギャップのある物質におけるdHvA振動現象を確認する数値計算が始まった。具体的には、既に開発済みのMFRTB法(研究目的2)を用いて、ノーマル状態のシリコン結晶のdHvA効果を考察した。研究論文作成中であるが、本成果は超伝導状態のdHvA効果の解明の予備的かつ補足的な研究になり得る。
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