研究課題/領域番号 |
18K03513
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田島 節子 大阪大学, 理学研究科, 教授 (70188241)
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研究分担者 |
中島 正道 大阪大学, 理学研究科, 助教 (20724347)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高温超伝導 / 電子相図 / 電子ドープ系銅酸化物 / 赤外フォノン |
研究実績の概要 |
ほとんどの銅酸化物高温超伝導体が、モット絶縁体にホールを注入することで実現するのに対して、電子を注入して超伝導化するタイプの物質について、近年電子相図の見直しが行われている。化学式で表記されている以上に過剰に酸素が入っていることが原因で、これまでの電子相図は反強磁性相が大きく広がっていたが、実際の反強磁性相はこれより遥かに狭い領域に限られることがわかった。ただし、この結果については、過剰酸素を取り除くための還元処理によって、本来あるべき酸素まで抜けている「酸素欠損」によって実質的に電子が注入されているせいではないか、という疑いが存在する。本研究では、この酸素欠損の有無をフォノンスペクトルから明らかにすることを目的としている。 共同研究者から提供を受けた(Pr,La)_2-xCe_xCuO_4+y単結晶のac面を使い、c軸偏光赤外スペクトルを測定した。その結果、群論で予想される3つのフォノンピーク以外に400cm-1付近に明確なピークが観測された。これは何らかの結晶欠陥に起因したものであると考えられるので、酸素欠損との関係を調べるために、結晶育成した直後のアニール処理していない結晶(as-grown crystal)のc軸フォノンスペクトルを測定したところ、ほぼ同じエネルギー位置にピークが観測された。複数のas-grown試料について同様の測定を行ったが、いずれの試料にもこの余分なピークは存在した。 この400cm-1ピークは、酸素濃度によらず存在することから、酸素欠損等に起因したものではなく、むしろPr/Laの置換など他のサイトの乱れに起因するものである可能性が高い。酸素欠損を示す証拠は、赤外フォノンスペクトルには見られなかったという結論となった。欠損がほとんどないとすると、強還元処理によって得られた電子相図は本質的なものである可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸素欠損の有無を赤外反射スペクトルから調べるという当初の目的は、達成された。ただし、結果は予想に反するネガティブなものであり、酸素濃度の違いは赤外スペクトルにほとんど反映されないことが明らかになった。酸素の乱れがあった場合、どのようなスペクトルになるのか、理論計算できないか検討したが、非常に複雑で時間がかかることがわかり、断念した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果を受け、最後の試みとして、ラマン散乱スペクトルを測定することを計画している。赤外活性フォノンには、過剰酸素や酸素欠損の影響が現れなかったが、ラマン散乱スペクトルには現れる可能性がある。銅酸化物超伝導体ではYBa2Cu3Oyなどで酸素欠損モードが現れることが知られているので、期待できる。
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