研究課題/領域番号 |
18K03514
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂田 雅文 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任講師(常勤) (30378559)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高圧力 / 超伝導 / 水素リッチ分子 |
研究実績の概要 |
本研究では、非金属軽元素を主体とした水素リッチな分子に対して、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた100 GPaを超える高圧力の印加及び赤外レーザー加熱を行うことで常圧下では見られない新奇構造を形成し、高温超伝導に代表される新たな物性発現を目指している。これまで、分子性物質の物性研究において、高圧力印加による分子解離・再結合による分子構造の変化は意図するものではなかった。本研究では、求める元素・組成比を持つ水素リッチな分子を構成ブロックとして、特定の温度-圧力経路を経ることで、意図した分子解離・再構成による化学結合の組み換えによって、新奇構造を作製する。いわば、超高圧力-低温及び超高温を用いた高圧合成によって、新物質創製を行う試みである。 水素リッチな水素-炭素-硫黄系分子であるジチアン(C4H8S2)を対象として、大型放射光施設SPring-8に課題申請し採択されたビームタイム内で、163 GPaまでの超高圧力下粉末X線回折-電気抵抗の同時測定を行った。粉末X線回折測定の結果から、ジチアンが常圧下とは異なる結晶構造へ変化するとともに、高圧力の印加によって、常圧の透明色から赤色化することを確認した。さらに、電気抵抗は163 GPaで1 kohmまで減少した(ジチアンは常温常圧で完全な絶縁体、120 Mohm以上の電気抵抗)。しかしながら試料の金属化・超伝導体化は観測されなかった。硫化水素(H2S)において高温超伝導が観測される150 GPa以上の圧力下でも金属化しなかった原因としては、硫化水素では常圧下での結晶構造において、硫黄-水素間の水素結合と共有結合による硫黄-水素-硫黄のネットワークが形成されているが、ジチアンでは水素は炭素と共有結合しており、水素結合と共有結合による硫黄と水素のネットワークを形成しにくいことが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度では、最初の対象物質としてジチアンを選択し、その超高圧力下における構造と導電性を検討した。超高圧力下における結晶構造の変化と導電性の向上は見られたが、結果として超伝導などの新奇物性の発現は見られなかった。超伝導が観測されなかった原因を考察する過程で、既に超高圧力下での超伝導現象が報告されている硫化水素との比較から、常圧下での結晶構造における硫黄と水素の結合様式(水素結合を含む)が、高圧力下で水素-硫黄ネットワーク形成に重要であることが見えてきた。具体的には、硫黄-水素間の水素結合を持つ物質が候補として適切であると考えられる。従って、本研究の最終目的である「超高圧力を用いた水素を含む新たな結晶構造の構築」に向けて重要な指針が得られた点で、研究は順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究結果に基づく考察から、常圧下で水素を含む結合ネットワークを形成する分子性物質を検討した。その結果、常圧下で硫黄-水素間の水素結合を含むネットワークを持つチオ尿素(CH4N2S)を候補分子とすることとした。チオ尿素の結晶中では、常圧下で既に、窒素-水素-硫黄の共有結合及び水素結合によるネットワークが形成されている。これは既に超高圧力下での超伝導が報告されている硫化水素において、常圧下の結晶構造で硫黄-水素間の水素結合と共有結合によるネットワークがあることと類似しており、チオ尿素においても超高圧力の印加によって水素を含む新奇の結晶構造の形成が期待できる。また、ネットワーク中に窒素が存在することから、硫化水素超伝導体の結晶構造の一部を窒素に置換した構造が超高圧力下で得られることが期待できる。さらに、平成30年度は超高圧力による分子構造・結晶構造の変化と導電性に着目して研究を行ったが、次年度はそれに加えて、超高圧力下において原子間の結合状態を変化させるためには高圧力に加えて高温状態が必要であると考え、赤外レーザー加熱実験を行うこととしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品(ダイヤモンドアンビル)の使用が予定よりも少なかったために次年度使用額が生じた。これについては、次年度に同じく消耗品(ダイヤモンドアンビル)の購入費用として使用することとしている。
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