研究課題/領域番号 |
18K03517
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
小林 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80205468)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マンガン / 超伝導 / 高圧 / 量子臨界現象 / 磁気ゆらぎ / 異常ホール効果 |
研究実績の概要 |
2018年度に育成されたα-Mnの純良単結晶を用いて,2019年度は以下に述べる各種高圧実験を行った。 (1) 電気抵抗:常圧での反強磁性相は1.4 GPaで消失し,それ以上で現れる磁気秩序相はPc = 4.2-4.4 GPaで消失することが明らかになった。圧力誘起相の消失は急激で一次転移的であるが,Pc近傍ではT^(5/3)の温度依存性を示し,SCR理論から強磁性ゆらぎの存在が示唆される。Pc近傍で超伝導探索を行ったが,60 mKまでの温度領域で観測されなかった。 (2) 交流帯磁率・磁化:交流帯磁率測定により,圧力誘起磁気秩序相では大きな帯磁率が観測され,自発磁化をもつことを発見した。SQUIDを用いた磁化測定により,1.4-2.0 GPaでの自発磁化の値は0.02μB/Mnであることが明らかになった。Mn原子間の反強磁性相互作用が強磁性に変化したとは考えにくいので,弱強磁性の起源はフェリ磁性あるいは寄生強磁性と考えられる。 (3) ホール効果:圧力誘起弱強磁性相で異常ホール効果が観測された。異常ホール効果の反転は10 mT以下の磁場で起こっており,ホール抵抗の大きさは最大で4.3μΩcm (1.4 GPa) で,鉄の2.7μΩcmより大きい。低圧の反強磁性相では観測されないことから,磁気構造の変化が異常ホール効果の有無を決めていることは明らかで,ブロッホ電子が感じるベリー曲率が原因と考えられる。近年,反強磁性体での異常ホール効果が報告されているが,α-Mnのような典型物質で見つかったことは大変重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予想した圧力誘起超伝導の発見には至っていないが,量子臨界点近傍では強磁性ゆらぎが支配的である可能性が明らかとなり,それによって超伝導が現れないと考えられる。超伝導探索にはより高圧下で強磁性ゆらぎが抑えられた状態が有望と考えられる。一方,高圧下での弱強磁性相で異常ホール効果が観測されたことは,当初の研究計画とは全く異なるが,大変興味深い。量子臨界現象の研究と合わせて,新しい展開が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
〇超伝導探索については,Pc以上の圧力領域がターゲットである。フェルミ面の状態密度は大きいので,強磁性ゆらぎが抑えられれば従来型の超伝導の可能性があり,今年度中の発見を目指す。 〇弱強磁性相で現れる異常ホール効果については,磁気構造を明らかにすることが重要である。中性子回折やNMRの共同研究を推進する。 〇量子臨界点Pc近傍の磁気ゆらぎ効果については,磁場中での相図を明らかにするとともに,他の物理量における磁気ゆらぎ効果の研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では液体ヘリウム使用料が占める割合が大きいが,2019年度は他の予算で執行したため,次年度使用が生じている。次年度は,ホール効果測定や磁場中での相図を決定する目的で,強磁場・低温実験を精力的に行うため,多くの液体ヘリウム使用料が必要である。その他,高圧セルは消耗品であるため,そのパーツの購入を行う。成果発表は,コロナウイルスの影響で国際会議や学会が行われないため,論文発表が中心となると予想している。
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