研究課題
α-Mnの純良単結晶を用いた電気抵抗測定により,特徴的な2段の磁気秩序相からなる圧力-温度相図を決定した。常圧の反強磁性相は1.4 GPaで消滅し,それ以上で現れる圧力誘起磁気秩序相では小さい自発磁化(約0.02μB/Mn)が観測された。最近接原子間の反強磁性相互作用がこのような圧力で変化するとは考えにくく,理論的にも全く予測されていなかった発見である。さらに,この圧力誘起弱強磁性 (WFM) 相では,小さい自発磁化にもかかわらず,Feなどの強磁性体に匹敵する大きさの異常ホール効果が観測された。同様の異常ホール効果は近年反強磁性体Mn3Sn等で観測されており,ベリー曲率に起因し,強磁性と同じ既約表現をもつ磁気秩序状態で現れているものと考えられている。磁気秩序構造の変化により現れる異常ホール効果は初めての例であり,WFM相のスピン構造の解明は今後の最重要課題である。WFM相は4.2 GPaで急激に消失するが,その臨界圧力では,電気抵抗は50 mK < T < 10 Kの広い温度範囲で温度の5/3乗に従う。これは強磁性ゆらぎを考えたSCR理論で予測された非フェルミ液体的振舞いであり,反強磁性相互作用が支配的と考えられる系で現れていることが興味深い。この量子臨界点近傍から17 GPaまでの圧力領域で超伝導探索を行ったが,50 mKまでの温度範囲で観測されなかった。反転対称性のない結晶構造で強磁性ゆらぎが存在すると,クーパー対の形成に必要な波数kと-kの伝導電子の縮退を保証する対称性がないことが原因と考えられる。量子臨界点でのT^2の係数は,低温極限で0.2μΩcm/K^2に達し,d電子系としては異常に大きい有効質量を示唆する。17 GPaでは0.001μΩcm/K^2まで減少することから,「重い電子」の起源は磁気ゆらぎであり,加圧により減少していることが明らかになった。
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