研究課題/領域番号 |
18K03520
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
西岡 孝 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (10218117)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 希土類化合物 / ベクトル磁化測定 / 磁気異方性 |
研究実績の概要 |
特異な結晶構造を有する希土類化合物の磁性:YbFe2Al10型TbRu2Al10は15Kで正弦波的な反強磁性に転移しさらに6.5Kで矩形波型の反強磁性へと転移する。4Kにおいて磁化の角度依存性をa,b,c面に対して詳細に行い磁場角度相図を作成した。2つの磁性イオンサイトをもつLa3Al11型Pr3Al11はTN=12.5Kで反強磁性転移を示し,TC=3Kで強磁性転移を示す。ベクトル磁化測定と結晶場解析を行い,2つのPrイオンの役割を明らかにした。正方晶α-ThSi2型RAlSi(R=Ce, Pr, Nd, Sm)のベクトル磁化測定を行った。R=Ceは面内強磁性,R=Prは一軸強磁性,Nd, Smは反強磁性であることを明らかにした。特に,Ceは面内異方性を持つものの[110]方向に強い軸異方性を有していることを明らかにした。 反転型冷凍機の開発:冷凍機と電磁石を組み合わせたベクトル磁化測定を実現するには冷凍機を反転させて,トップローディング方式にする必要がある。従来の方法は重力によるヒートパイプ効果を利用して1Kを実現していたので,単純に冷凍機を反転しただけでは1Kを実現することはできない。そこで,新たな2種類のモデルを考案し,反転型1K冷凍機の製作に成功した。さらに,これらのモデルの一つを発展させることで,トップローディング型を実現することができた。 冷凍機による断熱法比熱測定の開発:冷凍機は機械的振動が避けられないために断熱法比熱測定は絶対値を正確に測定できるという利点があるにもかかわらず,冷凍機で断熱法比熱測定はなされてこなかった。我々は振動による熱発生の原因は冷凍機の振動から発生する2次的な振動によるものであることを明らかにし,断熱を保った状態でアデンダを冷凍機にしっかりと固定することで熱発生を抑えることに気が付き,0.5 Kまでの冷凍機による断熱法比熱測定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料作成:単結晶育成はすべてAl-フラックス法で行った。試料作成の条件は以前に確立した方法を使用したもので新たなものはない。作成した試料は次の通り:YbFe2Al10型RRu2Al10(R=Tb, Dy, Ho, Er, Tm),α-ThSi2型RAlSi(R=Ce, Pr, Nd, Sm),La3Al11型Pr3Al11。作成したすべての試料の評価とすべての主軸の交流磁化率の測定を行った。 ベクトル磁化測定:今までに開発したベクトル磁化測定を用いていくつかの試料のベクトル磁化測定を行った。ベクトル磁化測定とは磁化の磁場に平行な成分だけでなく垂直な成分も同時に測定することで,磁化をベクトルとしてとらえることができる。さらに,磁化の磁場依存性,温度依存性だけでなく,角度依存性も精密に測定することができるので,最近の市販の磁化測定器では困難であった磁場-角度相図を作ることができ,これにより,各軸のメタ磁性の関係,主軸以外の相境界を知ることができる。このベクトル磁化測定を用いて,RRu2Al10,RAlSi,Pr3Al11の測定を行い,研究実績に述べたような結果が得られた。 装置開発:ベクトル磁化測定器は我々が開発した特徴のある装置であるが,市販の冷凍機を用いているために,安定に温度を下げることができるのは4K程度までである。1K程度まで下げる一つの方法は,冷凍機に電磁石を組み合わせて1Kを実現する方法である。ところが,磁化測定を行うためには冷凍機を反転させる必要がある。そこでまず,冷凍機を反転させて1Kを実現できる方法を模索し,ついで磁化測定に対応できるようにトップローディング方式にも成功した。また,機械的振動が大きい冷凍機で断熱法比熱測定を振動による発熱を抑える工夫をすることにより,0.5Kまでの比熱測定を行うことに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の主要点は,試料作成,物性測定,装置開発,成果公表である。特に,成果公表は着実に行っていきたい。 試料作成:2018年度に作成できなかった関連物質の作成を引き続き行うとともに,新たに単斜晶R2Al3Si2(R=Gd,Tb,Dy,Ho,Er)などの新たな試料作成も試みる。単結晶育成はAlフラックス法で行うので,技術的に新しい点はないが,試料に応じた最適育成条件を模索する必要がある。 ベクトル磁化測定:2018年度と同様に,ベクトル磁化測定器を用いた磁化測定を進めていく。現時点では,メタ磁性体RRu2Al10,Nd3Al11,新物質を考えている。特に,RRu2Al10は局所反転対称性が破れた系であり,異常な磁気異方性が特異な構造とどのように関連しているかを最近の理論の発展を踏まえて実験的に明らかにしたい。 装置開発:2018年度に成功したトップローディング型1K冷凍機の最適化を行い,電磁石に組み込んでベクトル磁化測定のシステムの開発を行う。現時点で最適なモーターを選定し,基礎実験を行い,コンピュータによる完全自動化システムの構築を行う。最終年度には圧力セルを組み込んで圧力下の磁化測定を行う。現在のベクトル磁化測定に用いているマグネットは7Tまで発生できる横磁場マグネットであるので,磁場の角度依存性が容易に実現できる。この特徴を生かして,ホール効果,磁気抵抗の角度依存性を測定できるシステムを開発する。 成果公表:物理学会で報告するのはもちろんのこと,国際会議,専門雑誌への投稿を積極的に行う。また,ホームページによる情報発信も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の予算で大きなものは電磁石ベクトル磁化測定器に使用するロックインアンプ2台と試料作成の電気炉であった。電磁石による磁化測定は2019年度であるので,2018年度に必ずしも2台そろっている必要がなかったが準備のために2台予定していたものの,ロックインアンプが製造中止となっており,後継機が値上がりしていたため1台しか購入することができなかった。あと1台は中古で対応するしかないかもしれない。電気炉は現有のものが不安定であるものの2018年度の試料作成には使用できたので,次年度に持ち越すことにした。
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