研究課題/領域番号 |
18K03520
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
西岡 孝 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (10218117)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 希土類化合物 / GM冷凍機 / 比熱測定 / ヘリウム回収 |
研究実績の概要 |
本年度試みたことは,特異な結晶構造を有する希土類化合物の物質探索,冷凍機による比熱測定の開発,ヘリウムガスの完全回収である。 物質探索:YbAlGe型RAlX(R=重希土類元素,X=Ge,Si)希土類化合物の作成を試みた。この物質は,希土類サイトがジグザグ構造になっており,YFe2Al10型と類似の複雑な磁気異方性が期待できる,いままで作成されているのは多結晶のみであった。多結晶の作成においても,アニールが不可欠で,incongruent melt物質であることがわかる。単結晶育成のために,Al自己フラックス法を様々な条件で調べた結果,2mm角程度の大きな単結晶を得ることに成功し,交流磁化率の測定を行った段階である。 冷凍機による比熱測定の開発:冷凍機は機械的振動が避けられないために,断熱状態で測定する必要がある比熱測定は不向きである。前年度は,アデンダを工夫することでなるべく機械的振動が影響を与えないように試みたが,3 K以下の測定は満足できるものではなかった。そこで,冷凍機を停止して,振動がない状態で比熱測定を行うことを試みた。液化するヘリウムは30cc程度であるために,冷凍機を停止すれば短時間で温度が上がってしまう。我々は,輻射対策を徹底的に行い,冷凍機を停止しても1時間以上~1.3 Kを維持できるようにした。その結果,液体ヘリウムを用いた実験と同じ精度で実験を行うことに成功した。 ヘリウム循環システムの開発:我々は,今まで,使用するヘリウムガスはわずかであるため,大気中に放出してきたが,近年ますます研究へのヘリウムの供給に危機感が強まり,実際,ヘリウムガスの価格は急激に上昇している。ヘリウムの回収装置はもちろん存在するが,それは,大掛かりなもので,したがって,相当に高額である。本年度は,自転車の空気入れを参考にして,電子制御したヘリウム回収装置の作成を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナによる影響で,半年間在宅勤務を余儀なくされ,研究は後半しか行うことができなかったが,この半年で,次に述べるように,次年度につながる大きな成果を得たので,おおむね順調に進展していると考える。
試料作成;YbAlGe型RAlGe(R=重希土類)および関連物質α-ThSi2型RAlX(R=軽希土類,X=Si, Ge)の単結晶育成に成功した。フラックス法で単結晶を育成する場合,仕込み組成が重要である。通常は目標とする組成で育成する。したがって,RAlGeの場合はR:Ge=1:1として,Alの量を調整する。ところがこの組成では,RAl3ができてしまう。そこで,組成をいろいろ変化させた結果,R:Ge=1:2でYAlGe型化合物ができた。また,R:Ge=1:1でもAlの量が少なければ,YAlGe型ができる。この条件を探すために30回を超える試行錯誤を繰り返した。まだ,磁化測定を行っていないが,十分に評価に値することだと思う。
装置開発:冷凍機は機械的な振動を避けることができないために,断熱環境の測定はクライオスタットと冷凍機を分離するなど,大掛かりなものにしなければ難しいと思われてきた。しかし,小型でも,熱輻射対策をきちんと行うことにより,冷凍機を停止しても1時間以上1.3Kを維持し,冷凍機を止めているために温度揺らぎは液体ヘリウムと全く同じであり,精密な比熱測定ができる。これにより,物性測定はすべて冷凍機だけでできるといってもいい。1回の実験で使用するヘリウムの量は30cc程度であるが,これをクリーンな状態でほぼ回収する10万円以下で製作できる安価なシステムの開発に成功した。これは高知大学のSDGsにも登録しており,ヘリウムをまったく浪費することなく,低温研究ができる。したがって,1000年後でも低温研究の心配がいらないことになる。これは,大きな成果であると思う。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究で,大きな成果は,上で述べたように新物質の育成と比熱測定の開発に成功したことである。我々は今まで,比熱が測定できなかったために論文で十分な議論ができなかった。1.3 K以上の比熱測定をすべての資料で行う。また,比熱測定開発の次の段階としては,3He温度までの測定を進め,年度内に完成させることを目標とする。また,ヘリウム回収システムは,配管が複雑なゆえに漏れが発生しやすく,改良が求められる。問題となる箇所を明らかにし,100%の回収を目指したい。特に重要な測定は,ベクトル磁化測定であり,新物質に加えて,YFe2Al10型化合物の測定も行う。また,α-ThSi2型CeAlGeはワイル半金属の可能性が指摘されており,ベクトル磁化測定およびホール効果の測定により,CeAlGe関連の物質のこのことを確かめてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症により,令和2年度4~9月まで,在宅勤務を大学から余生されていた。したがって,研究計画に遅れが出たため,電磁石用の磁化測定装置の開発と測定に若干の遅れが出た。残額はすべて消耗品として使う。具体的には,冷凍機の試験に使うヘリウムガス,配管部品;磁化測定器の装置開発に使う電子部品,材料,工具;試料作成のための原料,タンマン管,アルゴンガス,酸素ガスである。
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