研究課題/領域番号 |
18K03521
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
真中 浩貴 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (80359984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 複屈折 / イメージング技術 / 偏光解析技術 / 旋光性 |
研究実績の概要 |
昨今, サブミクロン領域における物性研究の重要性が, マクロ領域で現れる物性現象と原子描像との橋渡し役として説かれるようになってきた。このような背景の下で申請者は, 急速に発展してきた光イメージセンサ技術と従来の光学顕微鏡とを組み合わせることによって, サブミクロン領域での情報が得られる複屈折イメージング装置を開発してきた。
本研究の目的は, 現有の複屈折イメージング装置に入射光の偏光切り替え器を新たに加えることで, 複屈折, 光学主軸方位, 旋光能, ファラデー回転を同時に測定できる装置を開発することである。強磁性強誘電体や螺旋構造体に対して, これら4つの物理量のサブミクロン領域における二次元情報を得られるようになれば, 今後のマルチフェロイック研究の発展に貢献できるだけでなく, 光学顕微鏡を用いた磁気電気光学分野の新たな活路も拓ける。 複屈折イメージング測定の最大の特徴は磁性と誘電性の二次元情報が同時に取得できることであり, 強磁性強誘電体で出現する複合現象の研究には最適である。しかしながら, 巨大な電気磁気効果が期待される螺旋構造磁性体(カイラル磁性体)では, 長周期螺旋構造によって偏光面が回転する旋光性が複屈折に重畳する。そのため, 複屈折測定による磁性や誘電性の評価が容易ではなかった。この問題を解決するため, 本研究では様々な楕円偏光の光を利用して複屈折測定を行い, 旋光性の影響を受けづらい複屈折量の観測手法の開発と, その解析手法を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究ではカイラル結晶SiO2(人工水晶)を用いて, 開発してきた測定・解析手法の有効性を検証した。まず左水晶(右巻水晶)と右水晶(左巻水晶)に, これまで通りの円偏光(円偏光度99.8%)の光をc面垂直に入射した時の複屈折像を観察し, 偏光解析を行った。c面内では結晶学的異方性が無いため複屈折(位相差)はほぼゼロとなったが, 旋光性も予想値より大きく小さな値となった。 次に, 入射光を直線偏光に近い楕円偏光(円偏光度9.4%)に変更すると, 旋光性の影響を受け, 位相差が見かけ上, 大きく出現した。しかし詳細な偏光解析を行った結果, 旋光性と複屈折量の分離に成功した。その結果, 楕円偏光の主軸方向が旋光性によって回転する方向を見ると, 右水晶は右旋性を左水晶は左旋性が確認出来た。また旋光角も予想値に近い値が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果より, 完全円偏光の光を入射した場合, 複屈折量は正確に得られるが, 旋光性は全く評価できないことが分かった。一方, 完全直線偏光の光をどの方向に入射しでも, 複屈折量に旋光性が重畳する事も分かった。したがって解析的に両者を分離する必要があり, その最適条件や, 近似解の妥当性を今後検証していく必要がある。 このような問題は, 角度分解ラマン散乱実験でも, 入射角を変化させることで複屈折量も同時に変化し, ラマンピークに影響を及ぼしていることが, 近年研究で分かってきた。このような類似研究の進展も調査しながら, 本研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は変更切り替え器の設計の前段階として, どのような偏光状態を試料に入射することが最適であるかを, 精密に調べてきた。その結果, 予想よりも偏光状態のわずかなずれが実験結果に大きな影響を及ぼすことが分かってきた。 このような偏光解析技術の確立に予想よりも時間がかかったため, 予算執行が予定通りに進まなかった。今年度の研究成果を生かして, 来年度の前半には変更切り替え器を設置して, 予定通りに予算を執行する予定である。
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