研究実績の概要 |
透明試料に光を透過させると, 複屈折や旋光性のために光の偏光状態が変化し, それらの変化は試料の誘電状態や磁気状態を反映していることがよく知られている。光を用いた本手法は1つのプローブで誘電状態と磁気状態の変化を同時に解明できるため, マルチフェロイクス物質を用いた研究で活用できると期待した。 今年度は複屈折と旋光性が分離できるように測定装置の光学系を更新した。その結果, 測定データの取り込み速度がこれまでの3倍以上となり, 測定時の積算回数を増やすことで測定精度を向上させることが可能となった。次に, 直線偏光を用いた偏光測定が可能であることを確認した。しかしながら, 1万nmを超える大きな位相差を示す複屈折物質を用いた実験では, シミュレーションから期待される結果と大きく異なった。更新した測定システムを詳細に検証した結果, この相違の原因は高精度で, なおかつ高速で偏光状態を求める際に測定プログラムが行う補正作業に問題があることを突き止めた。 昨年度実施した強誘電体KH2PO4のドメイン形成過程を解明するため, 今年度は反強誘電体NH4H2PO4の複屈折イメージング測定も行った。これまでNH4H2PO4では温度を下げると試料が割れるため定量測定が困難であった。今回, イメージング技術の利用によって試料が損傷していない部分を測定後に選び出して解析することで, この問題を回避することに成功した。その結果, 常誘電相ではKH2PO4とNH4H2PO4とでは大きな違いは無かったが, 相転移温度近傍での振る舞いに決定的な差があった。詳細な解析から, この違いがドメイン形成過程と密接に関連していることを突き止めた。
|