研究課題/領域番号 |
18K03522
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
服部 一匡 首都大学東京, 理学研究科, 准教授 (30456199)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究では、主に多軌道系における局所クーパー対の応用としてのBiS2超伝導体の超伝導秩序変数の解析を行った。BiS2超伝導体は、その発見以来、超伝導秩序変数の対称性について活発に議論が続けられている物質である。我々は、これまでの電子間のクーロン斥力を基礎としたフェルミ面のネスティングと乱雑位相近似という描像・手法や、純粋フォノン機構によるs波超伝導状態などの理論を精査するとともに、独自にBi原子のp軌道模型に有効相互作用を導入し、多軌道自由度から発現する異方的s波状態とd波状態について解析を行った。局所クーパー対の寄与が大きいd波対称性の超伝導と通常の意味での異方的s波が広い領域で実現することがわかった。各種の実験との整合性が取れる超伝導秩序変数はこれまで提案されていないが、異方的s波の超伝導秩序変数は広い範囲の実験結果をうまく説明することが可能である。 BiS2超伝導体の研究とともに、強磁性超伝導体URhGeの基礎模型としての1次元のスピン1の近藤格子模型の密度行列くりこみ群による解析も並行して行った。URhGeはイジング強磁性体であるが、横磁場下で顕著な超伝導転移温度の増大が観測されている。我々は密度行列くりこみ群を用いて横磁場下の基底状態を詳細に解析し、様々な相が発現する事を見出した。この結果を元にすることで、スピンと伝導電子が強く相関した、局所的な複合粒子のクーパー対による超伝導状態を解析することができると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では動的平均場による局所クーパー対の解析を行う予定であったが、軌道に関して非対角成分を持つ超伝導秩序変数を導入した場合の計算精度の問題および極低温におけるモンテカルロ法による超伝導相内の計算の困難性から、早期に上記「研究実績の概要」に記載した内容に研究テーマをシフトした。派生的に行っていた一次元のスピン1近藤格子模型の解析は、直接は局所クーパー対の解析までは行うことができなかったが、近藤格子系ではスピンと伝導電子が結合した複合粒子を構成し、それらが超伝導への不安定化を担うことが指摘されており、現在その解析を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続き局所クーパー対による異方的超伝導を解析していく予定である。昨年度の問題点であった軌道非対角成分をもつ超伝導状態のモンテカルロ法による解析について対応策を検討する必要がある。一方で、軌道に関して対角的な秩序変数を持ちつつ、異方的超伝導が実現する場合も考えられる。この場合には困難は相対的に少なくなるはずであり、第一段階として軌道対角成分のみを考慮した状態を解析することが考えられる。これと並行して、当初の計画にあるダイヤモンド構造上のスピン軌道相互作用を含んだ模型における超伝導状態についてBCS理論を用いて解析する予定である。この模型は近年盛んに研究がなされているPr系の超伝導体と関連しており、その軌道秩序下での超伝導状態も興味深いものであるので、軌道秩序と超伝導の関わりについても解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりワークステーションの価格を抑えることができたため若干の余裕が生じた。この余剰金を次年度のソフトウェア等の購入にあてる予定である。
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