研究実績の概要 |
希土類元素を含む金属間化合物には「重い電子」状態を示すものが多く発見されており、強相関電子系の大きな研究分野を形成している。希土類の4f 電子は、高温では局在的であるが、低温において伝導電子との混成を通じて遍歴性を獲得する。このとき、伝導電子の有効質量が、自由電子に比べて非常に大きくなることから重い電子系と呼ばれている。 本研究では、Ce 系重い電子化合物である CeIn3 および CeIn3 を TIn2 (T = Co, Rh) で挟んだ構造をもつ擬二次元系層状物質 CeTIn5 を対象試料として、これらの系が示す「f 電子の遍歴⇔局在」、「磁性⇔非磁性」、「重い電子状態⇔超伝導」の変化に伴う電子構造の移り変わりを明らかにすることを目的とした。 R05年度には、これまでに測定・解析されたデータについて、過去の報告とも比較を行いながら、論文に纏める作業に取り組んだ。CeIn3 の電子占有数密度の温度変化を見ると、これまでに観測されていない変化を示していることに気づいた。温度:300Kにおける電子占有数密度にはブリルアンゾーンのM点付近に構造が見られたが、20Kには無く、動的平均場理論に基づく第一原理計算により求められたフェルミ面構造との比較から、f電子の局在⇔遍歴の温度変化を観測したものと理解される。また、温度:7Kの反強磁性状態における電子占有数密度には、ブリルアンゾーンの対角方向に島状の構造が観測されており、上記と同様の理論計算により得られた反強磁性状態のフェルミ面構造と良く対応していることが分かった。上記ような電子構造の明確な温度変化は、他の実験手法を用いた研究では報告されておらず、コンプトン散乱測定の実験的特徴を生かした結果と言える。
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