研究実績の概要 |
λ-(BETS)2FeCl4は磁場誘起超伝導体として注目され盛んに研究されてきた。高磁場の超伝導発現機構は解明されたと言っても良いが,低磁場の反強磁性状態,金属絶縁体転移の機構は未解決である。そこで本研究は,λ-(BETS)2FeCl4の磁気秩序状態における鉄の3dスピンの役割,そして金属絶縁体転移の起源を,圧力下磁化測定とμSR測定により明らかにすることを目的とする。今回のターゲットとなる物質は,lambda相とよばれる相である。しかし,合成条件があまり明確になっておらず,合成が困難である。そこで,最適な試料合成条件を探索している。現在,kappa相とlambda相の二相が同時に析出してしまうが,ひとまず目的のlambda相を得ることには成功している。今後も継続してさらに効率よくlambda相を得ることができる条件を探索する。 物性測定としては,電気抵抗測定と磁化測定により,金属絶縁体転移と磁気転移の圧力依存性を精密に測定し,磁性の面からみた温度ー圧力相図を構築し,金属絶縁体転移と磁気秩序解明の糸口をつかむことを目的としてる。測定時の圧力は,錫の超伝導転移温度を同時に測定することにより精密に求める。さらに,磁化測定においては,ワイス温度の圧力依存性を求めることにより,磁気的相互作用の圧力依存性に関する知見を得る。現在,圧力下の電気抵抗,磁化率測定を開始している。また,比較対象のために,鉄をガリウムに置換した試料を作成し,磁性と超伝導状態を調べている。ガリウム置換試料において,これまで知られているものと異なる超伝導対称性を持つ可能性を示唆するデータが得られていて,超伝導状態の異方性に関して,今後磁気抵抗測定などを用いて詳細に調べることを計画している。
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