確率的熱機関を、電荷密度波物質NbS3を用いた微小機械振動子系で実現するために、前年度に引き続き、簡易マスクレスフォトリソグラフィの開発を行った。新規に高解像度のDLPプロジェクターを光源に用いて露光条件の決定を行った。また、フォトレジストの現像状況を走査電子顕微鏡で確認したところ、現像工程で除去されたレジスト膜の側壁傾斜角度が数10度程度から70度程度までばらつきがあることが分かった。これは、露光時の焦点合わせの問題(操作者の練度)と光学レンズ系に依存する焦点の空間非一様性に起因すると考えられる。側壁傾斜角度が十分大きくないと、現像後に行う金属膜蒸着とリフトオフの工程が期待通りに実施できないため、今後この問題を優先的に解決する必要がある。 室温で電荷密度は状態になるNbS3に焦点を当て、物性測定を行った。分光反射率測定により、未知の反射スペクトル構造が得られたため、その偏光依存性を調べた。偏光依存性は、NbS3の結晶軸方向に明確に依存しており、NbS3結晶構造由来の反射スペクトルであることが分かった。また、X線結晶解析により、作成したNbS3は、電荷密度波を示すポリタイプType-IIではなく、半導体のType-Iであることが示された。これまでの研究で、NbS3の結晶を実験的に分類する複数の手法が確立してきた。今後新たに結晶を作成しNbS3のType-IIの作成を目指す。 微小機械振動子系を実測するための、光学振動計測系の試作を行った。マイケルソン干渉計をベースに、ホモダイン式レーザードップラー干渉計を制作した。ピエゾ振動子を用いて機械的な振動を測定したところ、現段階で数10nmの精度で測定可能と分かった。さらに精度を上げる余地がある。 以上の成果を組み合わせて、今後、電荷密度波系微小機械振動子の試作および縮小化を行い、微弱な熱揺らぎを制御する確率的熱機関の構築を行う。
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