研究課題
本課題では量子スピンカゴメ反強磁性体の良いモデル物質CaCu3(OH)6Cl2・0.6H2O(Ca-kapellasite)に着目し、本物質で実現する揺らぎの強い磁気基底状態の解明、超強磁場下磁化測定による強磁場相の探索、新規カゴメ反強磁性体の探索と物性評価を目的として研究を行った。令和元年度は純良な単結晶における磁気トルクの温度、磁場依存性測定、NMR測定、中性子回折実験を行った。磁気トルクの温度依存性からは磁気秩序の形成に伴う6回対称性の観測に加え、短距離秩序を示す20 K程度以下で2回および4回回転対称を有する成分が発達することを見出した。また、5 T以下では容易軸がa+2b軸とそれに同等な方向であるのに対し、5 T以上の磁場下では容易軸が30度回転しa軸とそれに同等な方向へ変化することを見出した。単結晶NMR測定では、磁気秩序を示す7.2 K以下で磁気揺らぎが異方的に生じることを発見した。具体的には、カゴメ面内方向には磁気秩序に由来する2次元のスピン波励起が観測され、一方カゴメ面直方向には緩和率T1が温度に比例するような、通常のスピン波とは異なる揺らぎが存在することを観測した。本結果をまとめた論文はPhys. Rev. Researchに投稿し受理された。また、単結晶における磁気構造解析をJ-PARC/MLFのSENJUで行った。その結果、7.2 K以下の磁気構造がネガティブカイラリティの120°構造であることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
令和元年度は、Ca-kapellasite単結晶における磁気トルクの温度依存性の観測、NMRによる異方的な磁気揺らぎの検出、中性子回折による磁気構造の同定に成功した。これは本物質の基底状態の解明に関して大きな進展といえる。また、それらの詳細や起源を考察した論文が1報受理され、もう1報は投稿中である。一方で、当初研究計画で予定していた100Tを超える超強磁場磁化過程の測定はまだ完了していない。これについては令和2年度に取り組む予定である。
Ca-kapellasiteでは令和2年度までのトルク実験によって、5 Tを境に120°磁気構造の容易軸方向が30度変化することが明らかになっている。この磁気構造の変化はカゴメ格子上の120°磁気構造における既約表現Γ5に属する2つの状態間の転移である可能性がある。令和2年度はJ-PARC/MLFのSENJUを利用し、単結晶を用いた磁場中中性子回折実験を行うことによって磁場中での磁気構造の変化を同定する予定である。一方で、100 Tを超える超強磁場下での磁化測定を行い、ヘキサマグノンの超格子に由来する磁化プラトーの探索を目指す。
コロナウイルスの影響により参加が予定されていた第75回日本物理学会(2020年3月16日開始)の現地開催が中止となった。それに予定していた旅費が余ったため、次年度へ繰り越すこととなった。この繰越し金は、研究最終年度において液体ヘリウムなどの消耗品として使用する予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
Physical Review Research
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