研究課題
大強度陽子加速器施設(J-PARC)のミュオン実験施設において、1GPa以上の高い圧力下でミュオンスピン回転緩和法実験(μSR)を行う新たな圧力容器を設計・作成した。作成した圧力容器は、6tonの加重に耐えるものであった。この加重は摩擦を無視すれば1.5GPaに相当し予定通りの性能である。次に圧力容器自身の材料であるNiCrAl合金のμSR信号をJ-PARCにて測定した。NiCrAlのゼロ磁場μSR信号は久保鳥谷部関数と指数関数の掛け算で表され、主としてAl原子核に起因する核双極子磁場とd電子などに起因する電子磁性を反映した磁場の双方の影響によるミュオンスピン緩和によると考えられる。また、NiCrAlのゼロ磁場μSRスペクトルの初期アシンメトリーは200K以下で急激な減少を示しており、この温度近辺で磁気秩序が起きていると考えられる。150K以下ではゼロ磁場μSRスペクトルに大きな温度依存性はなく単純な関数で表されるため、低温における高圧μSR用の圧力容器材質として、NiCrAlは適切な材料であることが確認できた。研究対象であるβ'-(BEDT-TTF)2ICl2の試料を1g圧力容器内にセットし、常圧においてμSR実験を行った。μSRスペクトルは試料からの信号と圧力容器からの信号の和で表される。ミュオンビームの運動量を変化させて測定したところ、本圧力容器ではミュオンの運動量が75MeV/cのときに試料からの信号が最大になることが分かった。このときの試料と圧力容器の信号強度の比はほぼ1:1であり、本圧力容器を用いて試料からのμSRの温度・圧力依存性を測定することが十分に可能である。有機伝導体は密度が小さくミュオンビームが試料に静止しずらいにもかかわらず、測定に十分な強度のμSR信号が得られたので、本研究により開発したμSR用圧力容器の有用性が明らかになった。
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Physical Review B
巻: 102 ページ: -
10.1103/PhysRevB.102.035102
Physical Review Research
巻: 2 ページ: -
10.1103/PhysRevResearch.2.042023