研究課題/領域番号 |
18K03535
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
谷口 淳子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (70377018)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 量子臨界現象 / 朝永-ラッティンジャー液体 / 超流動 |
研究実績の概要 |
1次元ナノ細孔中4Heは希薄な(薄膜)領域から加圧液体領域までの広い密度範囲において,朝永-ラッティンジャー(TL)液体特有の超流動応答が観測されており,1次元量子系の物性を調べるのに適した系と考えられている.本研究は,ナノ細孔中4Heを対象に,1次元量子系特有の強い量子揺らぎが引き起こす臨界現象を実験的に明らかにすることを目的としており,特に今年度は,観測周波数依存という切り口から,量子揺らぎの効果を調べた. 孔径3.4 nmの細孔を内包する多孔質膜を音叉型水晶振動子に接着し,従来のねじれ振り子(~2 kHz)に比べ一桁程度高い観測周波数(32 kHz)で超流動の観測を行った.その結果,飽和蒸気圧下において1.65 Kで超流動応答が観測された.これは,過去に行われた孔径3.5 nmの試料を用いてねじれ振り子で測定した結果(1.54 K)よりも高く,観測周波数が一桁程度高いことに起因している可能性がある.今後,密度・圧力依存をより詳細に測定し,また,さらに100 kHzの音叉型水晶振動子を用いた測定を進めることで,観測周波数依存の全体像を明らかにしていきたい. 一方,観測周波数0 Hz極限である直流の超流動流の観測も並行して行った.超流動流は1.5K付近で出現し,音叉型水晶振動子に比べて抑制されていることが明らかになった.さらに,孔径6.3 nmの試料を用いた先行研究に比べて,臨界速度(超流動が壊れる流速)が2桁程度小さいことが明らかになった.このような小さい臨界速度が観測されたのは初めてで,1次元極限の臨界現象を明らかにするうえで非常に重要な結果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,昨年度開発に成功した音叉型水晶振動子(32 kHz)を用い,超流動の測定を進めた.しかし,予定していた,希薄・加圧液体領域における超音波・ねじれ振り子同時測定は,超音波の測定系が完成したものの,ねじれ振り子が正常共振せず,測定には至らなかった.一方で,直流超流動流の実験の解析が進み,ナノ細孔中Heの臨界速度の大きさが明らかになってきた.この臨界速度の理論は,ここ数年進展が著しく,本研究結果とともに考察することで,1次元系超流動の性質,特に量子揺らぎによって超流動コヒーレンスの壊れていく過程について明らかになることが期待される.このことから,総括的にはおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,主に音叉型水晶振動子を用いた超流動の観測を行った.現在,超音波・ねじれ振り子の測定系の改良を急ピッチで行っており,この測定系が立ち上がり次第,希薄・加圧液体領域の超流動応答の観測を行う予定である.0 Hz極限(直流),2k Hz(ねじれ振り子), 32,100 kHz(音叉型水晶振動子), 3 MHz(超音波)と広範囲の観測周波数による超流動の観測を進め,総括し,理論と比較することにより,観測周波数依存の概要が明らかにする.そして,1次元系特有の量子揺らぎが超流動にどのような影響を与えているかを明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
緊急事態宣言下で,登学が制限され,実験を行えない期間が長かったため,実験に必要な寒剤費・消耗品費を予定通り使用できなかった.遅れている実験は翌年度に行う予定で,次年度使用額は寒剤費・消耗費品費に使用する計画である.
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