研究実績の概要 |
磁性由来の強誘電性を示す「マルチフェロイック物質」の発現機構は複数知られており、その中でも特にスピンカレント機構が最も良く研究されている。一方、三角格子反強磁性体RbFe(MoO4)2 (RFMO)において、磁気転移に伴ってc軸方向に自発電気分極が現れることが確認され、研究代表者らが面内スピンカイラリティが強誘電性の主たる起源であることを実証した。しかし、その微視的発現メカニズムは、従来のスピンカレント機構では説明できないため、重要な未解決課題として残されている。本研究では、関連物質として期待されるCsFe(MoO4)2 (CFMO)を中心に研究対象とし、加えてKFe(MoO4)2 (KFMO)および天然鉱石『岩手石』 Na2BaMn(PO4)2を研究対象とした。これらの結晶構造や磁性と強誘電性を調べることで系統的に理解し、これらに発現する磁性由来の強誘電性の微視的発現メカニズムを明らかにすることを目的とした。研究代表者は、研究対象物質であるCFMOおよびKFMOの単結晶育成に取り組み、結晶育成条件の最適化を行った。試行錯誤の結果、CFMO, KFMO両物質の極めて大型で純良な単結晶の育成に成功した。育成した単結晶を用いてX線回折実験を行い、CFMOとKFMOの詳細な結晶構造を初めて明らかにした。特に、KFMOは過去に報告された結晶構造が間違っていることを明らかにした。また、CFMOとKFMOの磁化と比熱のマクロ測定により磁性の詳細を調べた。さらに、CFMOのパルス強磁場化の電気分極測定からスピンカイラリティを起源とするマルチフェロイクスの発現を初めて明らかにした。スピンカイラリティ由来の強誘電性の2例目の発見である。
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