研究課題
ThCr2Si2型正方晶を持つYbNi2Ge2は、低温まで磁気秩序を示さない典型的な重い電子系物質である。YbNi2Ge2において強磁場磁化測定(磁場 H<60 T)を行い、30 Tから40 Tの間で磁化増大の傾きが急になることを見出した。このYbNi2Ge2における磁化の傾きの変化は、ThCr2Si2型正方晶を持つ重い電子系CeNi2Ge2との比較を通じて、メタ磁性によるものと推論している。一方、磁化測定以外のYbNi2Ge2の強磁場物性測定はあまり行われておらず、メタ磁性機構については未解明の部分が多い。このため、非磁性重い電子系物質の示すメタ磁性機構の解明が、本研究の課題の一つとなった。2019年度は、ThCr2Si2型正方晶を持つ重い電子系YbNi2Ge2において、温度領域は2Kから20K、14テスラ(T)までの強磁場比熱測定を行なった。その結果、電子比熱係数が約120mJ/K^2・mol(0T)から138mJ/K^2・mol(14T)まで増大することが明らかになった。この電子比熱係数の増大は、熱力学的にMaxwellの関係式として磁化の増大と関係付けられており、先行して行なった強磁場磁化測定の結果と整合的である事を示した。以上の結果を、強相関系国際会議(International conference on strongly correlated electron system:SCES'19)でポスター・論文発表した。Physical Properties of YbNi2Ge2 at High Magnetic Fields, Jumaeda Jatmika, Takao Ebihara, Atsushi Miyake, and Masashi Tokunaga, JPS Conf. Proc. 30, 011118 (2020)
2: おおむね順調に進展している
結晶育成装置の整備と合成手法の確立を2018年度(初年度)中に行った上で、大量合成と試料の大型化に挑戦した。この試料合成に関する成果をもとに、YbNi2Ge2において強磁場電子物性である強磁場中の比熱測定を行い、2019年度に新たな知見を得た。2019年度の成果は、上限磁場14Tまでで得られたが、東京大学を中心とする強磁場ラボラトリーにおける、25Tや45Tを上限とする比熱測定への、新たな展開性を示した。
YbNi2Ge2において、東京大学を中心とする強磁場コラボラトリーでの25Tや45Tを上限とする比熱測定へと展開して、メタ磁性近傍での電子状態を明らかにする。加えて、大阪大学によるYbNi2Ge2の光電子分光実験に発展させる。さらに、可能であれば、2018年度から2019年度にかけて合成した、ThCr2Si2型重い電子系YbCu2Si2における強磁場磁化や磁場中の比熱測定を行い、強磁場電子物性を明らかにする。
2019年度には試料育成手法の開発が順調に進展し、失敗が少なくなったために材料費が最小化でき測定に注力できるようになった。この結果、研究の進展速度が上がり、米国立強磁場研究所への研究出張が必要になった。また、時間的制約から2020年度に米国出張を計画する必要が生じたため。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件)
JPS Conf. Proc.
巻: 30 ページ: 011118-1 -6
doi.org/10.7566/JPSCP.30.011118