研究課題/領域番号 |
18K03538
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
矢田 圭司 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (40377916)
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研究分担者 |
川口 由紀 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (00456261)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピン三重項超伝導 / スピン軌道相互作用 / トポロジカル超伝導 |
研究実績の概要 |
超伝導トポロジカル磁性体の問題を考える上で、時間反転対称性の破れた超伝導体の電子状態について調べることは重要な問題の一つである。Sr2RuO4は超伝導の発現が報告された以降、長らく時間反転対称性の破れたスピン三重項超伝導体だと思われてきた。その根拠として、NMRのナイトシフトや、偏極中性子散乱による帯磁率の測定において、転移温度以下のスピン帯磁率の減少が見られていなかったためである。しかし、最近の追試実験においては、測定条件によって帯磁率が減少していることを示唆する振る舞いが見えており、スピン一重項超伝導である可能性が指摘されている。 我々はこのような問題を考えるにあたり、そもそもスピン一重項・三重項による分類では不十分であるということを主張する。Sr2RuO4はペロブスカイト型の結晶構造を持っているため、d軌道の中でもxy、yz、zx軌道の3つの軌道がフェルミ準位近傍に存在し、3つのフェルミ面を持つ。更には、この物質においてはスピン軌道相互作用は弱くなく、強くスピンと軌道が混成したバンドを持つ。そのため、同一バンド内のペアであっても異なる軌道間のペアが存在していることになる。その結果、結晶の対称性を破ることなく、同一軌道間のスピン三重項ペアと異軌道間のスピン一重項ペアが自然に混成する。 このようなスピン一重項・三重項の混成を考えることによって、これまでに発展してきたスピン三重項の理論やその結果に大きな変更を加えることなく、一部の実験結果との矛盾を解消できる可能性があるのではないかと考えている。実際、我々の行ったトンネルコンダクタンスの計算結果においては、混成による変更は小さく、従来理論で説明されていた軌道の異方性によって実験結果の再現が可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な実験事実からスピン三重項超伝導と思われていたSr2RuO4であったが、その中のいくつかの実験結果について見直さなくてはいけないことになったという点においては予期せぬ事態であった。そのため、従来理論を根本から見直す必要性があるという主張も存在する。一方、理論の解釈としては大きな変更はなく、従来の理論の修正でも十分な可能性があるということを示せた。そのような場合には、理論を改めて構築する必要はなく、従来理論の拡張から研究を継続することが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
最近、スキルミオン格子状の超伝導がトポロジカル超伝導になるという理論的提案がなされている(arXiv:2005.00027)。このような系は本研究課題が目的としている系であり、それがどのような発現機構で実現するのかということを明らかにすることは重要な問題である。そこで、超伝導を実現するのに必要なペアの引力や、スキルミオン格子の実現に必要なスピン軌道相互作用や空間反転対称性の破れの存在は仮定した上で、それらが共存する系において先ほど述べたトポロジカル超伝導状態が出現するのかどうかを調べる。弱結合のギャップ方程式や、強結合まで記述可能なエリアシュベルグ方程式を解くことによって、超伝導とスキルミオンが共存するトポロジカル超伝導状態の解の探索を行う。そして、そのような状態が実現するために必要な条件を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に新しく計算を始めるために計算機を購入予定であったが、コロナウイルス流行により見積もりに来て頂くのが難しくなり、購入を延期した。
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