研究課題/領域番号 |
18K03539
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
大原 繁男 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60262953)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キラル磁性 / 反対称スピン軌道相互作用 / 元素置換効果 / 磁気相互作用の制御 |
研究実績の概要 |
希土類キラル金属磁性体の磁気構造の元素置換による制御研究として,今年度は次の3物質について,置換試料合成と磁化あるいはホール効果測定を行った。 第一にYbNi3Al9へのCu置換試料を従来よりも詳細に濃度調整して育成し,それによるキャリア数変化をホール効果測定から明らかとした。Cu濃度に比例して電子数が増えていることが明確となり,Cu置換によるキラルらせん磁性の周期の変化がフェルミ面の大きさに依存している仮説を補強する結果が得られた。 第二に反強磁性キラルらせん磁気構造の候補物質であるTbNi3Ga9に対してCoは31%までCuは7%まで置換試料の育成に至った。いくつかの濃度について磁化測定を行ったところ,いずれも置換種の場合も異常を示す磁場が強磁場側に変化した。一方で磁気秩序温度はCo置換により系統的に抑制されるのに対し,Cu置換では変化が見られないなど,YbNi3Al9とは異なり,系統的な変化を捉えるに至っていない。無置換試料においても磁化の異常の試料依存性が観測されており,さらに再現性の確認が必要な状況である。 第三に複雑な磁気相図を持ち,かつ,反強磁性キラルらせん磁気構造が観測されているDyNi3Ga9についてはCoは54%まで置換できるがCuでは置換できないことがわかった。低濃度Co置換によりどの磁気相から抑制されるかといった詳細な測定を始めた。Cu置換により反強磁性キラルらせん磁気構造を示す相の拡張はできないが,磁気構造が置換に敏感なこと,Co置換により磁気秩序が抑制されることがYbNi3Al9と同様であることが明確となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液化ヘリウムの供給事情から学内のSQUID磁束計が使用できなくなり,計画していた測定ができなくなった。物質合成を優先しておこない置換濃度を制御した試料を数多く育成したが,測定によるフィードバックに遅れが出たため,磁化測定が予定よりもやや遅れている。一方,金属試料であるためホール係数が小さく,昨年度はホール効果測定がなかなか進まなかったが,試料加工と電極付けの技術が向上し今年度は安定してよい信号が得られるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
YbNi3Al9およびDyNi3Ga9のCo置換試料を精密に測定する。Co濃度調整を細かくし,YbNi3Al9についてはホール効果測定をすすめて,磁化と電流磁気効果の対応を試料ごとに明らかとする。DyNi3Ga9については,Co低濃度領域の試料を用いて,磁気相図全体がどのように消失していくかを追跡する。これまで磁化とホール効果測定を主に行ってきたが,置換による結晶場効果の変化についても明らかとする必要がある。そのために重要な置換濃度の試料については比熱測定をおこない,結晶場励起に変化がないかどうかを調査する。また,スピン偏極光電子分光測定など,より高度な測定手法を用いて,元素置換がフェルミ面におよぼす変化を明らかとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
液化ヘリウムの供給事情から学内のSQUID磁束計が使用できなくなり,計画していた測定ができなくなった。そのため機器使用量として計上していた予算が残り,次年度へと持ち越している。今年度は学内のヘリウム保有量が回復しており,新たなSQUID磁束計も導入されていることから,昨年度測定できなかった試料と環境における磁化測定を実施する。また,比熱測定を新たに実施する計画である。
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