研究課題/領域番号 |
18K03545
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
中井 祐介 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (90596842)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Dirac電子 / 反磁性 |
研究実績の概要 |
本研究では、特異なDirac電子状態(ノーダルライン半金属)を持つと期待されるPtSn4とその関連物質において、Dirac電子と巨大反磁性の関係や、Dirac電子の電子相関・スピン軌道相互作用の変化がおよぼす影響などを明らかにすることを目的としている。本年度は、以下のことを行った。 (1)PtサイトをPdに元素置換することで電子相関・スピン軌道相互作用の変更が期待できることから、前年度にPdSn4の単結晶を合成した。このPdSn4単結晶試料に対して、今年度は主に119Sn核のNMR測定を進めてきた。角度分解光電子分光実験からは、PdSn4とPtSn4の間には多くの違いが報告されている一方、これまでに得られた119Sn-NMRの結果からはPtSn4とPdSn4はどちらもDirac電子系に特徴的な振る舞いを示すことがわかりつつある。今後は、PtSn4とさらに詳しい比較を行うために、より広い温度範囲と異なる磁場方向の119Sn-NMR、およびPd-NMR測定を計画している。 (2)圧力下でDirac電子状態を示すと考えられる黒リンのNMR測定にも取り組んだ。この系は、圧力下でDirac電子状態となることが期待されているものの、これまでそのエネルギーバンド構造を実験的に測定することが難しかった。そこで我々は、高圧下で電子状態密度の情報が得られる核スピン格子緩和率(1/T1)の測定を行い、黒リンの半導体および半金属状態におけるエネルギーバンド構造をNMR法を用いて研究してきた。さらに、第一原理計算で求めたエネルギーバンド構造をもとに1/T1の温度・圧力依存性の実験結果の再現に成功した。この結果から、静水圧力により黒リンのバンドギャップの大きさのみが減少し、フェルミエネルギー近傍のエネルギーバンド形状自体にはほとんど変化がないことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単結晶PdSn4のNMR測定は順調に進んでいる。また、ノーダルライン半金属の可能性を含むDirac電子系物質である黒リンでも興味深い実験結果が出てきているため。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きPdSn4単結晶に対するNMR測定を行うこと以外にも、エネルギーバンド計算を行い電子状態を調べることを予定している。PdSn4とPtSn4で得られた実験結果と合わせて比較し、この系の電子状態の理解を進めたい。 一方、黒リンは臨界圧力近傍のDirac電子状態がPtSn4と同じノーダルラインDirac電子である可能性が理論研究から指摘されており、比較対象としても興味深い系である。理論計算から、3次元Dirac電子とノーダルラインDirac電子の形成という2つのシナリオが黒リンに対して提案されている。しかし、両者は状態密度のエネルギー依存性が類似しているため、輸送実験では区別することが困難であり、どちらのシナリオが正しいのか、いまだ決着していない。そこで、磁場による状態密度の変化に着目し、黒リンにおけるDirac電子の性質の解明を試みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度末に稼働を開始した液体窒素再凝縮装置のおかげで、液体窒素用の寒剤費が削減できたため。一方、液体ヘリウムの購入費用は高止まりが続いているため、液体ヘリウム用の寒剤費に充てることを計画している。
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