研究課題
最終年度では、ディラック電子系の有力候補物質である黒リンの研究に関して大きな進展があった。黒リンは、理論的考察から圧力誘起による三次元ディラック電子物質の有力候補であると提案されている。しかし、高圧下では実験的にエネルギーバンド構造の情報が得られる測定手段が限られるため、実験的研究は進んでいなかった。そこで本研究では、核磁気共鳴(NMR)法によって測定される核スピン格子時間T1が、ディラック電子系において重要なフェルミ準位近傍の電子状態密度を反映することに着目し、T1データからディラック分散の有無などバンド分散に関する情報を得ることを目的とした。昨年度に引き続き、黒リンの31P核T1の系統的な温度・圧力依存性測定を進めた。また、2020年に報告された黒リンの結晶構造パラメータの圧力依存性を用いてバンド構造計算も行った。得られた計算結果と、本研究を通じて蓄積されたT1データの整合性を検証することで、バンド構造計算の信頼性を高め、豊富な情報を引き出せる手法を構築した。さらに、圧力1.6GPa下の半金属状態において、2Tから24Tまでの非常に広い磁場領域でT1測定を行うことによって、強磁場下においてディラック電子系に特有なランダウ準位を検出し、ディラック分散を特定する新しい研究手法を提案した。これらの結果から、高圧下の黒リンにおけるディラック分散の存在を強く示唆する結論を得た。本研究で確立した研究手法が、黒リン以外のディラック電子系候補物質において、ディラック分散の特定に応用されることを期待している。
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https://sites.google.com/view/u-hyogo-nmr/home