本研究では、二重ペロブスカイト型マンガン酸化物の1つである NdBaMn2O6 の単結晶体を作製し、この物質の室温巨大磁気抵抗の基本的性質とそのメカニズムについての研究を行った。申請時には、本物質の金属-絶縁体転移の転移温度は温度は最も高いもので 290K (17℃)であったが、今研究で試料作製条件などを検討した結果 転移温度が 300 K (27℃) となる試料の作製に成功した。これにより、巨大磁気抵抗効果も 24 ℃での観測に成功した。巨大磁気抵抗の発現する磁場も 2 T 程度と室温近傍であるにも関わらず低磁場であることから、本物質が基礎物性に対する研究のみならず、デバイスなどへの応用にも発展させることができることを示すことに成功した。また、放射光X線をもちいた結晶構造解析を行うことで、この金属-絶縁体転移が電荷整列を伴うものであることを明らかとした。本物質の絶縁体相が電荷整列相であることを発見したのは本研究が初めてである。さらに単結晶中性子線回折測定により、本物質の低温領域での磁気構造が層状(A型)の反強磁性秩序であることを明らかにした。A型の反強磁性体であることは、多結晶体を用いた研究により既に報告されていたが、本研究により、本物質は電荷整列相とA型反強磁性秩序が共存していることを初めて明らかにした。本来、この2つの層は共存しえないものなので、この共存状態が、本物質が室温かつ低磁場で巨大磁気抵抗がするカギとなっているのではないかと考えている。このように、多くの有用な性質を発見することに成功したが、本物質は未だ同じ条件で作製したつもりでも、金属-絶縁体単位が同じにならず安定して高品質の試料を作製するに至っていない。最終年度は主に、試料作製の条件の再検討を行った。それにより、原料となる多結晶体は常に安定して300K に転移温度を有するものを作製することに成功した。
|