研究課題/領域番号 |
18K03547
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
北野 晴久 青山学院大学, 理工学部, 教授 (00313164)
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研究分担者 |
孫 悦 青山学院大学, 理工学部, 助教 (30824180)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄カルコゲナイド / 電気化学 / ジョセフソン効果 / スピン軌道相互作用 / 多バンド |
研究実績の概要 |
集束イオンビームを用いて作製したFe(Se,Te)単結晶の面間接合素子に対して観測された固有ジョセフソン接合的挙動の起源を探るため、(1)過剰鉄の影響と(2)面内接合素子との比較を行った。まず(1)について、素子作製後の電気化学的処理と単結晶合成後の熱処理から各々過剰鉄を減少させる2つの方法を検証した。その結果、後者の方が過剰鉄をより多く減少できること、および過剰鉄が少ないほど電流電圧特性に大きなヒステリシス挙動が現れることを確認した。 次に(2)について、熱処理を用いて過剰鉄を十分に減少させた高品質単結晶から面内接合素子を作製し、その電流電圧特性を調べたところ、面間接合素子と同様なヒステリシス挙動を観測した。素子形状から面内接合素子がジョセフソン効果を示すとは考えにくく、むしろ臨界電流密度を超える電流印加に伴って発生するジュール熱の影響のよってヒステリシス挙動が生じることが判明した。 この知見から過去に作製した面間微小接合素子の電流電圧特性を再吟味し、様々な残留過剰鉄量に対する面間臨界電流密度を求めたところ、過剰鉄の減少と共に臨界電流電流密度が急速に増大すること、さらに得られた臨界電流密度が磁化測定から得られるデピニング臨界電流密度よりも数倍大きいことが分かった。これより、従来は一部の薄膜試料でのみ評価されていた対破壊電流密度を、我々の手法により単結晶試料に対して評価できる可能性が示された。 これと並行してFeSe単結晶の作製にも着手し、約0.7×0.4×0.03 mm3のFeSe単結晶片を得た。また、Fe(Se,Te)単結晶の面内微小接合を様々な形状で作製し、電気二重層構造の形成に適した素子構造を決定した。低温下で電気化学的な電界印加実験を試みたが、接合部の薄膜化が不十分だったため、電気二重層構造の形成および電界キャリア注入効果は観測できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始以前から数年間謎であったFe(Se,Te)単結晶の面間接合素子に対する固有ジョセフソン接合的挙動の起源が解明されたこと、および高品質の単結晶試料と微細加工を組み合わせる我々の手法が面間方向の対破壊電流密度決定に有益なことが判明した、2つの研究成果は、本研究実施前の予想を上回る大きな進展と言える。一方、当初計画していたFeSe単結晶へのスペーサー分子インターカレーション(層間分子挿入)と微小試料への電極作製については、実施する時間が取れず、先送りする結果となった。以上より、予想より十分に進展した部分と実施できず先送りした部分が残ったという意味で、「おおむね順調に進展している」と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
集束Gaイオンビームによる微細加工の後に、Arイオンミリングを追加して、面内接合素子の接合部分の薄膜化を徹底し、面内方向の対破壊電流密度の決定と異方性の評価、および電界キャリア注入効果の検証に取り組む。さらに、スコッチテープなどを用いる機械的剥離法により、微小薄膜試料を作製し、集束イオンビーム装置に搭載予定のPtデポジッション機能を用いた微小電極形成に取り組み、単結晶から作製される微小薄膜試料を用いた面内ジョセフソン接合素子の作製と電界キャリア注入効果の検証に取り組む。このため、当初計画していたスペーサー分子インターカレーションについては、引き続き実施する時間が取れないと予想されるため、本研究の実施項目から外す。その代り、面間接合素子の接合部を局所的に狭めた素子を作製し、面間方向のジョセフソン接合素子の作製に取り組む。また、従来の電流電圧特性評価に加え、微分伝導度スペクトルの評価に取り組み、多バンド系超伝導の本質およびスピン軌道相互作用の影響を調べるための準備を整える。
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