研究実績の概要 |
研究目標は、スピン間に働く交換相互作用の値を、汎用的に、簡便に、正確に決定する方法の確立である。本研究で提案する方法では、磁気秩序がない常磁性状態で、磁場中の中性子回折を利用することで、サイト毎の磁場誘起磁気モーメントの値を調べ、交換相互作用の符号や大小の情報を得る。その情報を踏まえた上で、磁化や比熱などの実験結果と計算結果を比較して、より正確に交換相互作用の値を決定する。 2019年度は、Ni2V2O7の磁場中の中性子回折実験を行った。この物質では、TN1 = 6.7 KとTN2 = 5.7 Kで磁気転移が起こるが、磁気構造は分かっていない。2 Kでは8から30 Tの間で1/2量子磁化プラトー(一種の常磁性状態)が見られる。2種類のNi2+サイト(Ni1とNi2)が存在する。スピンの値は1である。3種類の短いNi-Ni対が存在し、それらの反強磁交換相互作用をJ1, J2, J3.と表すことにする。交換相互作用の値については以下の3組の報告例があり、結論が出ていない。J1 = 33.5 K, J2 = 37.4 K, J3 = 470 K (モデル1)、J1 = 1.8 K, J2 = 6.0 K, J3 = 161 K (モデル2)、J1 = 9 K, J2 = 38 K, J3 = 17 K (モデル3)。 ゼロ磁場の1.8 Kで磁気反射を観測した。磁気反射の位置から、結晶格子とは非整合な磁気構造が現れると考えられる。1/2量子磁化プラトーが存在する10 Tの磁場の1.8 Kで、磁場誘起磁気モーメントが作る磁気反射を観測した。磁化プラトーに至る前の磁場においても、異なる一連の磁気反射を観測した。その指数は整数で、ゼロ磁場とは異なる磁気構造が磁場中で発現していることを意味している。
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