研究課題/領域番号 |
18K03551
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
長谷 正司 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 先端材料解析研究拠点, グループリーダー (40281654)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 磁場中の中性子回折 / 磁場誘起磁気モーメント / スピン / 交換相互作用 / 常磁性状態 |
研究実績の概要 |
研究目標は、スピン間に働く交換相互作用の値を、汎用的に、簡便に、正確に決定する方法の確立である。現在、Ni2V2O7の研究を行っている。この物質では、TN1 = 6.7 KとTN2 = 5.7 Kで磁気転移が起こるが、磁気構造は分かっていない。2 Kでは8から30 Tの間で1/2量子磁化プラトー(一種の常磁性状態)が見られる。2種類のNi2+サイト(Ni1とNi2)が存在する。スピンの値は1である。3種類の短いNi-Ni対が存在し、それらの交換相互作用をJ1, J2, J3.と表すことにする。交換相互作用の値については幾つかの報告例があるが、J1 = 1.0 K, J2 = -6.3 K, J3 = 78.5 Kが最も確からしい。最も強いJ3相互作用でNi1-Ni1の反強磁性ダイマーが形成され、J1とJ2相互作用でダイマーとNi2モノマーが弱く結合していると考えられる(ダイマー・モノマー模型)。2022年度に中性子回折の結果を解析した。ゼロ磁場では非整合な磁気構造が現れる。TN1とTN2の間の6.0KではNi2モーメントのみが秩序化し、モーメントがbに平行なスピン波構造となる。2.3KではNi1とNi2モーメントがともに秩序化し、モーメントがab面内のサイクロイド構造となる。Ni1とNi2モーメントの大きさは、それぞれ1.62と2.50muBで、Ni1において短縮が見られる。10 TでのNi1とNi2の磁場誘起磁気モーメントはそれぞれ、0.3と1.9 muBで、Ni1では小さい。以上の結果はダイマー・モノマー模型で期待される結果と一致する。スピン・ネマティック相が現れると考えられている6から8 Tで、磁気秩序の存在を示す磁気反射が見られたので、スピン・ネマティック相は無いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究実績をまとめて論文を書いた。現在、再投稿中で、2023年度には刊行されると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
関連研究として、YbCo2の磁場誘起転移の研究を行う。他のRCo2(Rは磁性希土類元素)とは異なり、ゼロ磁場では1.8Kまでに磁気秩序が現れないので、YbCo2は近藤格子常磁性体だと考えられる。一方、磁場印加によって磁気転移が起こるので、磁場中では、遍歴電子メタ磁性体だと考えられる。このような二重性はf電子系では極めて珍しい。 磁場印加によって磁気秩序が現れるかどうかを研究するために、中性子回折実験を行いたいと考えている。オーストラリアのANSTOでのビームタイムを申請していて、承認されれば、2023年度中に実験が可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述のようにNi2V2O7の論文を投稿した。研究成果を2023年秋の日本物理学会(東北大学)で発表したいので、出張旅費(80,000円)、参加費(9,500円)、年会費(12,000円)が必要である。また、YbCo2の中性子回折実験を行いたいので、試薬代(11,000円)が必要である。
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