研究課題/領域番号 |
18K03553
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
藤森 伸一 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (70343936)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 光電子分光法 / 電子構造 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、重い電子系超伝導体における超伝導メカニズムを明らかにするため、3次元角度分解光電子分光法を用いることにより、その3次元的な電子状態を実験的に明らかにすることを研究目的としている。 2019年度は、2018年末にスピン三重項超伝導体であることが報告され、現在世界的にも競争的に研究が行われているUTe2に対する電子状態研究を行った。同様の研究が米国等の研究グループでも進められているという情報があったため、試料輸送から実験に至るまでの準備を極めて迅速に進め、さらに実験技術においてもこれまでの経験を最大限に活用して研究を進めた。短期間のビームタイムで効率的に精度の高い実験データを得ることに成功し、世界的にも初めてUTe2の電子状態を詳細に明らかにした。共鳴光電子分光実験によりU 5f部分状態密度の導出を行って、第一原理計算の結果と比較したところ、U 5f電子は遍歴的な性質を持っているものの、同時に強い電子相関効果も存在していることが明らかとなった。角度分解光電子分光実験の結果、明瞭なバンド分散を観測し、計算との比較を行ったところ、大まかなバンド構造が計算によって再現されるものの、フェルミ順位近傍の電子構造は電子相関効果によりバンド幅が狭くなり、また計算では予測されていない非コヒーレント成分が存在していることが明らかとなった。実験の計画から実施、データ解析、論文投稿までを三か月以内に完了し、2019年8月に世界に先駆けて論文発表することに成功した。 その他、Eu化合物に対する角度分解光電子分光実験も行い、2019年度はEu3+化合物であるEuPd3に対する研究成果について論文発表を行った。本研究課題で目標としていた研究は計画通りに実行されており、2019年度に関しては計画通りに進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヘリウム供給不足等の問題はあるものの、実験は計画通りに進行しており、また2019年度に関しては学会発表や論文投稿も順調に進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ研究は順調に進行していた一方で、新型コロナウィルスの影響により、2020年度に予定されていた2件の国際会議(米国MRS spring meetingおよび独Workshop on the Dual Nature of f-Electron Systems)における招待講演は会議自体がキャンセルとなり、成果公開や国内外の研究者との情報交換において支障が出ることが予想される。今後、より積極的な論文発表や、国内外研究者とのオンラインでの情報交換を利用して成果公開や研究成果に対する議論を進める予定である。また、緊急事態宣言発令によるSPring-8の利用停止や、液体ヘリウム不足等によってビームタイムの利用時間が制限されているため、今後より効率的な実験を計画することにより実験を進める。2020年度については、局在的なU 5f電子状態を持つ新化合物URh6Si4およびURh6Ge4に対する研究を行うことにより、局在U 5f電子状態の詳細を明らかにすることを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度において参加を予定していた国内外学会がコロナウイルスの影響を受けて中止になったことにより、学会参加に係る費用が次年度使用額として生じた。次年度使用額は2020年度経費と合わせて、2020年11月に予定されている国際会議に参加するための費用や現在、休止中の実験装置再立ち上げに必要な消耗品の購入に係る費用として使用する。
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