研究課題/領域番号 |
18K03556
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
山本 隆夫 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (80200814)
|
研究分担者 |
土橋 敏明 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (30155626)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 異方性ゲル化 / モンテカルロシミュレーション / 高分子鎖の配向 / 剛直性高分子鎖 / 化学ポテンシャル勾配 / Moving Boundary描像 / Ginzburg-Landau方程式 / 拡散律速とエネルギー律速 |
研究実績の概要 |
(1)高分子鎖の剛性を制御したシミュレーション 化学ポテンシャル傾斜を加えたボンド角依存エネルギー(すなわち剛性)を導入した高分子鎖の濃厚溶液のモンテカルロシミュレーションを行った結果、次のことが分かった。(結果1-1)剛性が小さい場合は、高分子鎖は化学ポテンシャル傾斜方向に平行に配向するが、剛性が大きく(剛直性高分子鎖)なると垂直に配向する。(結果1-2)平行に配向する場合、高分子鎖の2端点が先行するU字型の形状になっている。高分子鎖の配向については、化学ポテンシャル傾斜だけでなく高分子鎖の剛性が重要な役割を果たすことが分かった。 (2)ゲル化因子の流入を考慮したGL方程式の構築とその解析方法の構築 1軸対称性をもつエネルギー律速なゲル化過程を、Ginzburg-Landau(GL)型のダイナミックスで記述する方法を考案した。ゲル化因子による高分子鎖間の斥力因子の減少を、ゲル化因子と斥力因子の化学量論的な反応方程式で記述した。GL方程式のキンク型近似解に基づき、ゲル化因子の流入を考慮したゾル・ゲル境界面の運動方程式を導出した。このGL描像は、拡散律速の場合のMoving-Boundary描像の自然な拡張となっている。GL描像より次の結果が導き出された。(結果2-1)ゲル化が生じるまでにはラグタイムが存在し、ゲル化初期では、界面は普遍的に速度一定で移動し、後期では、ゲル化因子による斥力因子の阻害の詳細に依存した運動をする。(結果2-2)化学量論的な反応方程式のもつ不可逆性がゾル・ゲル転移の不可逆性を保証している。 (3)実験から得られた成果 血液凝固過程及びゲル溶解過程の測定によりGL方程式についての知見が得られた。DNAが織り込まれた不織布によるアクリジンオレンジ吸着実験より、化学量論的な反応方程式の知見を得た。異なる長さの高分子鎖の混合により高分子鎖が配向することを発見した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シミュレーション、現象論的な理論解析およびそれらへの実験による支援という3つの手法を相補的に用いて研究を遂行している。それぞれの事項についての成果を検討し下記のように判断したので進捗状況について区分(2)を選択した。 (1)モンテカルロシミュレーションによる高分子配向過程の解明について:研究計画策定時には予想していなかった高分子鎖の配向方向が高分子鎖の剛直性に依存するという意外な結果が得られた。加えて、化学ポテンシャル傾斜下では高分子鎖の形状がU字型形をしていることから、高分子鎖の配向と剛性の関係の説明ができた。シミュレーションからの結果としては興味深い結果を得たと考えている。この結果に基づき、2019年度におこなうシミュレーション計画が策定できた。 (2)GL方程式に基づく現象論ついて:1軸性のものに限って検討したが、おおむね理論の枠組みを決定することができた。特に、ゲル化因子の流入による自由エネルギーの変化を記述する形式が確立できたことは収穫であった。ゲルの融解過程の実験データより、可逆型のゲル化と不可逆型のゲル化が存在することが分かった等、今後の研究が期待される知見が得られたと思われる。 (3)実験結果からの知見の収集:血液凝固のダイナミックス測定とゲル融解ダイナミックス測定という異なる実験データが(2)の理論構築の大きなヒントとなった。どちらもGL方程式で記述できるべきであるという視点に立つことで、理論の枠組みを決めることができた。短鎖DNA溶液と長鎖DNA溶液の混合過程における長鎖DNAの配向の発見は、ゲル化時の配向メカニズムに新たな可能性を示している。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)ゲル化機構を取り入れた剛直性高分子濃厚溶液のシミュレーション (1-1)剛直性高分子鎖の濃厚溶液系に、ゲル化条件を課したモンテカルロシミュレーションを行う。シミュレーション条件を、高分子濃度、高分子鎖長、剛直性といった高分子の性質と、化学ポテンシャル勾配及びゲル化条件と言った高分子鎖の環境の2つにわけて検討する。ゲル化条件については、2018年度のGL方程式での理論解析の知見を生かす。注目するシミュレーション結果として、ゲル化の進行速度、配向(すなわち異方性)の強さを考えている。可能であるならば、斥力阻害因子(ゲル化因子)の流入機構を導入したシミュレーションを行いたい。(1-2)短鎖DNA溶液に長鎖DNA溶液を浸漬すると長鎖DNA溶液が配向するという現象が観測されている。ゲル化時の配向機構の解明のために、長鎖高分子鎖と短鎖高分子鎖の混合過程のシミュレーションを行う。 (2)GL方程式による解析手法の拡張とモンテカルロシミュレーションとの結合 (2-1)1次元GL方程式を回転対称な2次元の場合に拡張し、円盤状のガラス板に挟まれた高分子溶液の異方性ゲル化実験と比較検討する。(2-2)斥力阻害のダイナミックスを記述する化学量論的な反応方程式の可能性を探索し、血液凝固等複雑なゲル化機構が想定されているゲル化ダイナミックスについて定量的に解析する手法を確立する。(2-3)拡散律速、エネルギー律速双方のダイナミックスをGL方程式で統一的に記述する方法を探索する。(2-4)ゼラチンの酵素によるゲル化実験で現れた、ゲル化に遅れて異方化が生じる現象の機構解明を通して、ゲル化および異方化双方を記述するGL方程式を探索する。 (3)ゲル形成ダイナミックス、ゲル融解ダイナミックスの測定 種々のゲル形成ダイナミックスを測定すると共にゲルの融解過程の測定をおこなう。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、2019年3月に学会発表予定であったが、新しい知見が得られ、それを含めた発表にした方がよいと判断し、2019年秋の発表に予定変更した。そのために少額の残金が生じた。残金は2019年の秋の学会発表旅費等に含める予定である。
|