スーパーエンハンサは、転写に必要な因子が凝集した転写凝集体表面に局在化されていることが実験的に示唆されている。転写凝集体などの核内構造体は、arcRNAと呼ばれるRNAから形成されている。本年度は、高分子溶液の相分離を予言する理論であるFlory-Hugginsの理論を転写によるarcRNAの生成ダイナミクスを考慮に入れて拡張し、核内構造体のモデルを構築した。このモデルを使ってarcRNAの体積分率のプロファイルを解析し、相分離の不安定性のために、転写サイトから一定距離離れた場所でarcRNAの体積分率がジャンプすることを明らかにした。 また、スーパーエンハンサによって転写凝集体表面にアンカリングされた遺伝子の転写凝集体内の転写装置へのアクセシビリティーを明らかにするために、遺伝子のプロモータの分布の解析を行った。真核生物のゲノムは10k-1Mbpsの長さスケールでループを形成しており、ゲノムのループは、コヒーシンがゲノムを一定レートで押し出すループ押し出しによって形成されていることが示唆されている。コヒーシンはスーパーエンハンサからロードされることが示唆させているため、ループ押し出しによって遺伝子は凝集体表面に引き込まれることになる。ループ押し出しが不活性な時には、遺伝子のプロモータとエンハンサの間のリンカを長くすると、プロモータの転写装置へのアクセシビリティーが低くなる。一方、ループ押し出しが活性な場合には、リンカを長くすると、プロモータの転写装置へのアクセシビリティーが大きくなることを明らかにした。その原因は、リンカの緩和時間がリンカの長さの二乗で大きくなり、ループ押し出し後のプロモータの転写表面への滞在時間が長くなるからであることが分かった。
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