研究課題/領域番号 |
18K03559
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
山本 直樹 自治医科大学, 医学部, 助教 (90580671)
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研究分担者 |
富永 圭介 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (30202203)
中西 真大 福岡工業大学, 工学部, 助教 (00707763)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 広帯域誘電分光 / タンパク質の水和水 / ベクトルネットワークアナライザ / テラヘルツ時間領域分光 / 回転緩和 / 低振動運動 |
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質水和水のナノ秒-ピコ秒におけるダイナミクスの温度依存性を評価することを目的としている。そのためには、ギガヘルツ(GHz; 10^9 Hz)-テラヘルツ(THz; 10^12 Hz)領域における複素誘電率スペクトルを包括的に測定することが必要である。これまで、0.5-20GHz、および0.3-2THzでの温度依存性スペクトル測定は可能であったが、それらの間に存在する周波数ギャップを埋めることが課題であった(Yamamoto et al., JPCB 2016, 120, 4743-4755; Yamamoto et al, JPCB 2018, 122, 1367-1377)。 そこで今年度は、福岡工業大学が管理するベクトルネットワークアナライザの温度変化を可能にするための恒温槽を購入し、ベクトルネットワークアナライザと組み合わせた。モデル球状タンパク質であるリゾチームを用いて測定を行った結果、-40℃~20℃において良好な温度依存性スペクトルを測定することができた。また、紫膜においても良好な結果を得ることができた。 さらに、50GHz-0.3THzのギャップを埋めるために、神戸大学が管理する低周波数テラヘルツ帯用のテラヘルツ時間領域分光計を用いて、水和リゾチームの温度依存性を評価した。低周波数帯の測定では2cmの広口径な測定セルが必要であるため、それにあわせてセルの窓材について検討した。その結果、-20℃~20℃において60GHz~0.3THzにおける複素誘電率スペクトル測定を行うことができ、先行研究と矛盾しない温度依存性を示すことを確認した。 これらの結果を先行研究で得られたデータセットとつなぎ合わせたところ、0.5GHz-2THzにおいてなめらかに接続されたスペクトルを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は0.5GHz~0.3THzにおける温度依存性複素誘電率スペクトル測定を行うことが必須であった。初年度において、そのために必要な装置および環境の整備を行うことができ、かつ実際に温度依存性スペクトルの測定を行うことができた。したがって、本研究計画を実行するための基盤が整備されたことから、研究は滞りなく進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
0.5GHz-2THzの温度依存性広帯域複素誘電率スペクトルを回転緩和および低振動運動を含むモデル関数でデコンボリューションすることにより、各温度点におけるダイナミクスの評価を行う。特に、20GHz-0.3THzのデータが加わったことから、先行研究で用いてきた関数系ではこのギャップのスペクトル成分を再現しきれない可能性がある。そこで、新たな回転緩和成分、あるいは振動成分を導入することにより、その問題の解決を図る。一方で、これらの単純な分子運動に由来する関数形ではスペクトルを再現できない可能性もある。その場合は、広く理論研究者の意見を取り入れることにより、新たな関数形の構築も視野に入れて解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に購入した恒温槽の価格が未定だったため、初年度に前倒し支払をして必要より多い額の前倒し受け入れを行った。実際の恒温槽購入には十分な額であったため、次年度使用額が生じた。 今後は実験および打ち合わせのために神戸大学および福岡工業大学へ行く必要があり、その旅費に当てる。また、学術論文投稿のための支出に充てる。
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