研究課題/領域番号 |
18K03562
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 隆一 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任講師 (10636385)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 溶媒和 / 密度ゆらぎ / 相分離 |
研究実績の概要 |
本研究の課題である電解質溶液の性質解明のためには、(1)イオンおよび溶媒の排除体積効果、(2)イオンの電荷に起因する水和効果(電縮効果)、を理解することが不可欠である。まず(1)を理解するため、電荷を持たない疎水性溶質のを2成分溶媒に入れた溶液の性質を理論的に調べた。具体的には、Mansoori-Carnahan-Starling-Leland(MCSL)による多成分剛体球系をほぼ厳密に記述するモデルを用いて、溶媒和自由エネルギー、密度揺らぎ、Kirkwood-Buff(KB)積分、第2ビリアル係数、そして相挙動(液ー液、気ー液)などを調べた。水のような溶媒では溶媒分子間引力も重要であるため、(MCSL)モデルに加えてvan der Waals型の引力相互作用も取り入れた。パラメタ設定は、溶質が溶媒第1成分よりも第2成分に溶けやすい、すなわち溶媒第2成分の組成比を大きくしていくにつれて溶媒和自由エネルギーが小さくなっていくようにした。結果、次のようなことがわかった。(1)溶質サイズが大きくなるにつれて溶質ー溶質間のKB積分が大きくなる、すなわち溶質ー溶質間引力(直接相互作用+溶媒誘起相互作用)が強くなる、(2)モデルに依存しない一般的結果として、溶質ー溶質間のKB積分を溶媒組成の関数として見ると中間組成で極大をもつ。これは溶媒組成ゆらぎと溶質との結合に起因する。(3)溶媒が全ての組成で混ざり合う場合であっても、溶質を増やしていくことによって相転移が起こりうる(溶質誘起相転移)。相転移は同じパラメタであっても液ー液、気ー液の両方が起こりうるが、液ー液のほうが界面張力が小さいことが多いため核生成はおこりやすい。
以上の結果はJournal of Chemical Physicsに出版されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要欄で述べたように、排除体積効果を調べた研究はすでに論文として出版されている。また、イオンの水和効果を調べた研究については現在論文を執筆中であり、おおむね順調に進展しているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究で溶液における排除体積効果に対する知見がえられており、論文も出版されている。また、塩水溶液におけるイオンの水和効果に関する研究も進展しており、イオンの活量係数、浸透圧係数、部分体積などの実験を合理的に説明できるようになった。これについては現在論文を執筆中であり、近々投稿する予定である。このモデルは、様々な状況に適用可能なものであるので、今後は、(1)イオンの界面吸着や(2)動力学的性質に関する研究を進める予定である。(1)についてはコンピュータを用いて溶媒やイオンの分布を求めて界面張力や界面へのイオン吸着などの熱力学量を計算し、実験データとの比較を行う。(2)については主として解析的な計算を行い、電気伝導度や粘性係数の導出をして実験との比較を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は解析的な理論を主として研究を行い、計算機の使用はそれほど多くなかったため、2台の購入にとどめた。来年度は計算機の使用が増えることが想定されており、1台追加で購入することを予定している。
|