研究課題/領域番号 |
18K03564
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
有賀 隆行 山口大学, 大学院医学系研究科, 准教授(特命) (30452262)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生体分子モーター / エネルギー変換 / 1分子計測・操作 / 非平衡物理学 / 生物物理 |
研究実績の概要 |
生体内で荷物を運ぶキネシンは、化学エネルギーを力学仕事へと変換する分子モーターである。その運動機構の理解の進展とは裏腹に、エネルギー変換の理解は進んでいなかった。私は、これまでの研究で1分子キネシンの力学操作と応答計測を行い、キネシンの運動に伴う非平衡散逸を定量した。その結果、入力された化学エネルギーの大部分が、計測プローブからは見えない形で、キネシン分子の内部から散逸されていることを新たに見いだした。本研究では、その未知の内部散逸がどう生み出されるのか、キネシンの分子内部でのエネルギーの流れの定量的な理解を目的として研究を行ってきた。 本年度は、これまでに着目してきた(生理的条件に近い)高い自由エネルギー変化の条件から、低い自由エネルギー変化の条件でキネシンのエネルギー変換がどのように変化するかの考察を行うため、実験結果からの要請を満たしつつ局所詳細釣り合いの条件を組み込んだ、キネシンの新しい理論モデルを構築した。その結果、生理的な条件に近い高い自由エネルギー変化の条件では、局所詳細釣り合いの条件の有無はシミュレーション結果に影響を及ぼさないが、逆に低い自由エネルギー変化の条件では局所詳細釣り合いの条件が陽に現れる可能性が示唆された。 この成果は、キネシンの非平衡エネルギー論の研究として投稿中であった論文を再投稿する際にレフェリーコメントへの対応として盛り込み、Physical Review Letter誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
局所詳細釣り合いを含めたモデルの構築は、本研究課題の一つとして計画されていたが、無事構築することが出来た。研究実施機関の変更があったため、実験装置の再構築が必要となり、定量的な実験結果との比較には遅れが出ているものの、その分、理論方面での理解が進み、その一部が論文として発表されたことを鑑みて、おおむね順調に進展しているという総合的な自己評価となった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画とおり、新しく構築した局所詳細釣り合いを組み込んだモデルと、低い自由エネルギー変化の条件下で計測したキネシンのエネルギー論の実験結果との比較検討を行う。その後、各種変異体を用いた内部散逸の理解へと発展させていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、キネシンの実験と並行して理論構築を行う予定であったが、本年度は研究実施機関の変更があり、実験計測装置の再構築が必要となったため、実験の進捗にやや遅れがでている。理論構築の方ではそれ以上に進んだ成果が得られたがあまり予算を必要としないため、装置改良や実験の実施に用いる予定であった使用額の使用には遅れがでてしまった。次年度は、これらの当初予定されていた装置改良や実験の実施に関わる予算として使用する。
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