研究課題/領域番号 |
18K03566
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
松山 明彦 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (60252342)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バナナ型分子 / ベントコア分子 / ネマチック相 / ツイストベンドネマチック |
研究実績の概要 |
2013年6月,捩れ(ツイスト)と曲げ(ベンド)の2つの歪みをもつ螺旋状の液晶相(ツイスト・ベンドネマチック(NTB)相)が,”バナナ型”の分子を用いた実験で初めて観測された。通常の液晶ディスプレイで用いられている,”棒状”の分子では観測されていない。バナナ型分子には何か秘密があるようである。弾性理論を用いた理論的研究は行われてきたが,バナナ型分子の特徴を考慮した分子論的観点からの研究は少なく,NTB相を含む液晶相転移の全貌は明らかではない。本研究では,バナナ型分子の曲げ角度に依存した分子間相互作用を考慮し,捩れと曲げ歪みを持つ様々な液晶相の統計力学的理論を構築する。新規な相転移や相分離の,温度・濃度・外場(電場や磁場など)依存性について調べ,なぜバナナ型分子が必要なのかについて理論的に明らかにする。このような分子場理論からの研究は,国内外において少なく,捩れと曲げ歪みを持つ新規な液晶相の基礎物性のみならず,光学・機能性材料分野への基礎的知見を提供することができる。
本研究の前半では,このようなバナナ型分子の曲げ角度を考慮にいれ,温度・濃度・電場や磁場などの外場に依存して,どのような角度で熱力学的に安定なNTB相が現れるかを明らかにする目的である。そのための準備として,(1)バナナ型分子の曲げ角度を考慮したテンソル秩序パラメーターを導出し,ネッマチック相の自由エネルギーを構築した。温度と曲げ角度に依存したバナナ型分子の相図の計算を行った。とくに,曲げ角度が90度以下でも理論的に記述できるところが大きな成果である。曲げ角度に依存した新規なネマチック相を理論的に予測できた。さらに,コレステリック相へも発展させることができた。 これらを基礎として,NTB相への展開をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ,バナナ型分子の曲げ角度を考慮した,バナナ型分子のテンソル秩序パラメータを導出した。それを用いて,等方相ーネマチック相への相転移温度と曲げ角度依存性についての相図の計算を行った。さらに,キラルネマチック相についても研究を行なった。特に,分子の3つの軸の配向に依存した新規なネマチック相を予測できたことは,当初の計画通りであり,さらに,キラルネマチック相へも理論を発展できたことは,今後のねじれと曲げを伴った,NTB相への基礎ができたと考える。以上の結果は,2本の学術論文に採択済みであり,研究は概ね順調に進んでいると判断した。
さらに,当初予測していなかったが,バナナ型分子自身の軸不斉からくるねじれを考慮することもできることがわかった。したがって,バナナ型分子は曲げ角度だけではなく,ねじれ角も考慮に入れることで,新しいネマチック相へ発展することが可能である。今後の理論的研究への新しいアイデアが生まれた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って,NTB相の自由エネルギーを構築し,バナナ型分子の曲げ角度に依存したNTB相や新規なネマチック相について調べる。さらに,電場や磁場などの外場の効果や,ツイストベンドスメクチック相へ研究を進める計画である。 さらに,高分子液晶ゲルや高分子液晶系などの高分子液晶系で起こるねじれと曲げ効果など,新しい研究の種の発掘も行う計画である。さらに,軸不斉をもつバナナ型分子が作る,新しいネマチック相へ理論を発展させる計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
注文した洋書の郵送予定が3月であったが,海外からの郵送が遅れ,次年度予算にずれこんだため。4月になり注文した洋書が手元に届き,すでにこの予算は使用済みである。
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