研究課題/領域番号 |
18K03571
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
貞包 浩一朗 同志社大学, 生命医科学部, 准教授 (50585148)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 臨界現象 / 相分離 / 自己組織化 / ソフトマター / 溶媒和 / 液体 / 中性子散乱 |
研究実績の概要 |
研究代表者らはこれまで、3-メチルピリジン水溶液に「拮抗的な塩」(親水性イオンと疎水性イオンからなる塩)を加えることで、長距離秩序構造(charge-density-wave構造)や2次元流体的な臨界挙動を示すことを明らかにしてきた。更に前年度までに、3-メチルピリジン水溶液以外に、2,6-ジメチルピリジン水溶液においても、拮抗的な塩であるテトラフェニルホウ酸ナトリウム(NaBPh4)が同様の現象を誘起する、という結果を得た。拮抗的な塩が長距離秩序構造を安定化させる要因としては、親水性イオンと疎水性イオンの分布が溶液中に「長距離静電斥力」を発生させていることが示唆される。2020年度は、この「長距離静電斥力」の影響を小角中性子散乱実験により検証した。具体的には、charge-density-wave構造が形成されている水/2,6-ジメチルピリジン/NaBPh4混合溶液に、更に塩化ナトリウム(NaCl)を添加して「長距離静電相互作用」を遮蔽したときに、中性子散乱プロファイルがどのように変化するのかを観測した。その結果、20mmol/L以上のNaClを添加した溶液では、長距離静電相互作用が壊れることが分かった。このことから、charge-density-wave構造の安定化には拮抗的な塩が作る長距離静電相互作用が本質的な役割を果たしていることが明らかになった。 次に、水/2,6-ジメチルピリジン/NaBPh4混合溶液を用いて動的光散乱実験を行ったところ、charge-density-wave構造や2次元流体的な臨界挙動が現れる溶液条件においても濃度揺らぎの「動的特性」は全く変化しない、という新しい結果を得た。 以上の成果について、現在は論文を作成中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
大強度陽子加速器施設(J-PARC)での小角中性子散乱実験が、当初は2020年秋に割り当てられていた。ところが、実験で用いる機器(温度コントロールのための特殊サンプルチェンジャー)の納品が送れたため、マシンタイムが2021年3月末に延期された。これにより、データ解析まで含めた研究計画を2020年度内に完了させることができなかった。また、小角中性子散乱実験用の特殊サンプルチェンジャーに一部不具合もあり、予定していたサンプルを全て測り終えることができなかった。以上により、2021年度も研究計画を継続させる必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画を完了させるため、以下の2点の問題を解決したい。 (1) これまで、LCST型の臨界挙動を示す3-メチルピリジン水溶液と2,6-ジメチルピリジン水溶液に対し「拮抗的な塩」が長距離秩序構造(charge-density-wave構造)と2次元流体的な臨界挙動を誘起することが分かっていたが、UCST型の臨界挙動を示す有機溶媒水溶液に対する塩の効果は未解明である。 (2) 本研究計画の中で、charge-density-wave構造が安定化されるメカニズムは、親水性イオンと疎水性イオンの分布に由来する「長距離静電斥力」をもとに説明できることが分かったが、2次元流体的な臨界普遍性が現れるメカニズムはまだ明らかにできていない。 (1)の解決のために、2021年3月末に行った小角中性子散乱のデータ解析を完了させる。また(2)の解決のために、小角中性子散乱実験を追加で行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初2020年度までに大強度陽子加速器施設(J-PARC)にて小角中性子散乱実験を完了させる予定であったが、一部の機器(温度コントロールのためのサンプルチェンジャー)の不具合により、達成することができなかった。そのため、2021年度も引き続き小角中性子散乱実験を行う。実験のための消耗品費(実験試薬)として15万円、J-PARCへの旅費として5万円を使用する予定である。
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