研究実績の概要 |
臨界温度(相分離温度)近傍にある水/有機溶媒混合溶液中では、通常「無秩序な濃度揺らぎ」のみが存在し、秩序を持った構造は形成されない。これに対し研究代表者らはこれまでに、3-メチルピリジン水溶液に「拮抗的な塩」を加えることで、「高秩序濃度揺らぎ」構造が誘起されることを実験で明らかにした。更に、この高秩序濃度揺らぎ相においては、溶液は3次元空間に存在しているのにもかかわらず、2次元流体固有の臨界普遍性(2次元Isingに従う臨界普遍性)が現れることも発見した。以上を踏まえ、本研究では、どのような溶液条件でこれらの特徴が現れるのか、これらが現れる溶液と現れない溶液とでは、分子間相互作用にどのような違いがあるのか、高秩序濃度揺らぎ構造はどのような動的特性を示すのかを明らかにすることを目的とした。 その中で、2019年度と2020年度に行った小角中性子散乱実験により、3-メチルピリジン水溶液の他に2,6-ジメチルピリジン水溶液に拮抗的な塩を加えた水溶液においても、高秩序濃度揺らぎが形成されることを明らかにした。 最終年度である2021年度には、LCST型の相分離挙動を示す2-ブトキシエタノール水溶液、及びUCST型の相分離挙動を示すアセトニトリル水溶液に拮抗的な塩を加えることでも、高秩序濃度揺らぎの形成が形成されることを明らかにした。また、これらの秩序が形成される条件では、2次元Isingに従う臨界普遍性も観測された。 さらに、コントラストマッチング法を用いた小角中性子散乱実験とNMR実験を行ったところ、高秩序濃度揺らぎを形成する混合溶液中では、水/有機溶媒の界面に凝集した親水性イオンと疎水性イオンに由来する「長距離静電相互作用」が生じていることが分かった。一方、動的光散乱により、秩序構造の動的特性を調べたところ、秩序の有無によってその特徴は全く変化しない、といった予想外の知見も得られた。
|