自由エネルギーランドスケープ(FEL)描像は、非平衡系の熱力学的性質と動的性質を統一的に説明する唯一の理論であり、本研究はFEL理論を非平衡系物理学のパラダイムとして確立することを目指して行い、次の成果を得た。 (1) 温度の変動に対する緩和関数および感受率の振る舞いからFELの緩和時間が求められることを明らかにした: (2) 非平衡系のエージングが2種類に分類できることを示すとともに、FEL の緩和により第II種のエージングが生じることを示し、エージングの待ち時間依存性からFELの緩和の情報が求まることを示した: (3) FEL 理論に基づき、協調緩和領域の明確な定義を与え、その領域の大きさと構造エントロピーおよび緩和素過程との関係を明確にして、FEL 理論の枠組みの中で厳密にAdam-Gibbs の関係式を導いた: (4) 新しい定義に基づく協調緩和領域を分子動力学シミュレーションにより決定し、その温度依存性がフォーゲル-ファルチャー則と矛盾しないことを示した: (5) 第I種のエージングを生じる緩和素過程の遷移率の分布と第II種のエージングを生じるFELの緩和が共存する系として、FEL の緩和を表す仮想温度に依存するトラッピング拡散モデルを考え、中間散乱関数の持ち時間依存性を解析して、二種類のエージングのクロスオーバーが起こることを示した。 本研究遂行中にパンデミックCOVID-19が起こり、緊急的にCOVID-19に関する研究を行った。本研究で緩和現象の解析に用いた数学的手法がパンデミックのコンパートメントモデルに応用できることを発見し、COVID-19に対するSIQRモデル及びSPAQRモデルを提出して、PCR 検査の重要性、行動制限と緩和を繰り返すことにより波状の感染曲線が生じること、日ごと陽性者数の経時変化および発症率が推定できることなどを示した。
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