研究課題
等方なマクスウェル分布からずれた非等方な電子の速度分布が関連するプラズマ現象が,近年,宇宙プラズマから産業応用プラズマまで数多く報告されている.これらの報告は,3次元の電子速度分布を基礎パラメータとして把握することが,プラズマ科学を発展させる鍵となることを示している.電子速度分布の計測法は,従来,静電プローブ,アクチノメトリー,トムソン散乱,ホイッスラー波の吸収,制動X線や電子サイクロトロン放射等が開発されてきた.しかし,これらの方法では,速度分布の非等方性の情報まで得ることは容易ではなく,また,接触計測の必要性やプラズマへの擾乱,レーザーや波動の入射・出射ポートの確保,計測可能なエネルギーや密度の制限,といった課題がある.そこで本研究では,原子から放射される発光線の偏光を利用し,宇宙から実験室までの幅広いパラメータのプラズマに適用可能な手法を開発することを目的とする.2年目の本年度は,小型ECR放電装置で生成したヘリウムプラズマの電子速度分布関数を計測した.まず,波長300-800 nmの11本のヘリウム原子発光線の放射率および,波長588 nm,668 nmの2本の発光線の偏光を空間分解計測した.次に,電子速度分布として,磁場に平行・垂直方向に異なる温度を持つ非等方な2温度マクスウェル分布を仮定し,放射率については衝突輻射モデル,偏光についてはコロナモデル計算を用いて,実験と整合する計算結果を与える平行・垂直方向温度を求めた.その結果,ECR面付近で平行・垂直方向温度がそれぞれ20,65 eVと求まった.この結果は,ECRによる電子の垂直方向加速で生じる電子速度分布の非等方性と矛盾しないと考えられる.なお,衝突輻射モデル計算では,ふく射再吸収を考慮し,フィッティング結果の一意性を検証した.また,コロナモデル計算では,電子速度分布をルジャンドル多項式展開して使用した.
2: おおむね順調に進展している
・研究計画に沿って「②電子速度分布計測の実証」を実施し,非等方な電子速度分の計測に成功した.・前年度に「今後の研究の推進方策」にあげた「磁場配位の最適化による偏光度向上の検討」を実施した.具体的には,実験に使用している小型ECR放電装置(単純カスプ磁場)に方位角磁場を重畳し,壁への磁力線接続長を伸ばすことで,電子損失の低減を試みた.しかし,結果として電子温度・密度が低下することが分かった.これは,同時に生じる磁気ミラー比の減少によるものだと推測される.
本年度の研究により,本課題の主目的であった「②電子速度分布計測の実証」を達成した.最終年度の次年度は,偏光計測を行う発光線の数を増やすことで,電子速度分布形状の推定精度を向上させる.また,研究計画の「③原子種と発光線の探索」を実施し,ヘリウム原子以外の元素の発光線に対して,偏光が観測できるかを実験的に調べる.
当該年度に予定していた課題の実施を完了したため.
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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巻: 7 ページ: 49~49
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巻: 59 ページ: 076007~076007
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http://oel.me.kyoto-u.ac.jp/shikama/index.html