光渦とは、通常の平面波と異なりらせん状にねじれた等位相面をもつ光である。本研究では、近年多くの分野で注目されている光渦レーザーの特異な位相空間構造を利用した光渦レーザー誘起蛍光(OV-LIF)法を開発し、プラズマ中の流れ計測に応用することを目的としている。具体的には、光渦中の原子が感じる方位角方向のドップラー効果を利用することで、平面波レーザーでは原理的に測定が不可能なレーザー光を横切る流れの検出を試みる。 昨年度までに数値計算によって検討した結果、LIFスペクトルに対する光渦の方位角ドップラーシフトの寄与を観測するには、トポロジカルチャージ10以上、ビーム径100μm程度の光渦ビームを生成し、10km/s程度の速いイオン流れを計測する必要があることがわかった。 今年度は、半導体光アンプを使用し、空間光変調器に描画するホログラムをブレーズド化することで、20mW程度の強度の光渦ビームを生成することができた。2インチの平凸レンズにより、焦点位置で150μm程度までビームを絞ることに成功した。核融合科学研究所のHYPER-I装置内にステンレス製の電極を挿入し負電圧を印加することで形成されるシース前面の速いイオン流れを対象として、電極面と平行なビームによるLIFスペクトルの取得を試みた。バイアス電圧を印加しない場合、通常の平面波ビームによるLIFスペクトルと光渦ビームによるLIFスペクトルには有意な差は見られなかったが、負電圧を増加するとともに、光渦ビームによるLIFスペクトルの標準偏差が増加することが観測された。この傾向は、数値計算と定性的に一致するものであった。一方、標準偏差の増加から見積もられる流速は、印加電圧から予想されるものより大きな値となった。流速を高精度で推定するのに十分なLIFスペクトルのSN比が得られなかったため、今後、受光系の改良によってSN比の向上を目指す。
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