研究課題/領域番号 |
18K03597
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
向川 政治 岩手大学, 理工学部, 教授 (60333754)
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研究分担者 |
鎌田 貴晴 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (50435400)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マイクロプラズマ / 自己組織化 / 散逸ソリトン / プラズマフォトニック結晶 / 容量結合方式 |
研究実績の概要 |
本研究では、屈折率の周期構造をマイクロプラズマの自己組織化で実現し、電磁波制御デバイスとしてのプラズマフォトニック結晶の実現方法として提案する。この研究を通じて、電磁波と散逸ソリトンの基本相互作用(電磁場がプラズマ自己組織化に及ぼす相互作用)の学理を探求する。 令和元年度では、放電プラズマ生成と測定に関して、(1)流量・ガス種を変化させたときの外部回路の調整による散逸ソリトン周期配列の可変制御、(2)マイクロギャップDBD におけるバリアの二次電子放出係数と活性化エネルギーの理論計算、また、数値計算においては(3)放電系反応拡散方程式の計算方法の改良を行い、流体モデルとの整合性について検討を行った。 散逸ソリトン周期配列の可変制御については、昨年度に確認した外部容量変化に伴う六角パターン構造の制御性を、異なる流量やガス種において検証した。安定な六角パターンの現れる流量の範囲、かつHe/Ar混合比0~100%において、外部容量の連続制御によって六角構造を制御できる可能性を示した。 二次電子放出係数と活性化エネルギーについては、昨年度に実験的に得られた二次電子放出係数とその温度依存性を説明するため、オージェ放出の遷移確率に基づく二次電子放出係数の温度依存性の計算方法を検討した。固体内電子にフェルミディラック分布関数を適用する方法を考案し、一次結果γ=0.1~0.2を得た。 放電系反応拡散方程式の計算方法の改良については、次元解析の方法に基づいて方程式に現れるパラメータのスケーリングを行い、特に、電圧印加から放電の定常状態に至るまでの時間の高速化を試みた。回路方程式に現れる時定数を 1ナノ秒に設定し、他のパラメータはスケーリング則に従って変化させたところ、約3.5μ秒で六角構造に達し、同時に電子密度が実験値レベルまたはそれ以上増加することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、マイクロギャップ放電により空間対称性を有し局在性の高い自己組織構造である散逸ソリトンを生成し、この構造を人工的に制御することを目的としている。また、この自己組織構造をプラズマフォトニック結晶とみなし、プラズマ屈折率の周期構造をマイクロプラズマの自己組織化で実現し、電磁波制御の効果を検証する。 科研費申請時の当初計画では、BSO 結晶のポッケルス効果による電荷密度分布測定を、ICCDカメラでによる方法から、パルスレーザとCCDカメラの組み合わせで行うこととしていたが、財源の関係で入手できず見送ることとなった。これに伴い、BSO電荷密度測定に基づく自己組織化構造の解析は、望まれるような進展がない。 しかし、外部回路の調整による散逸ソリトン周期配列の可変制御については、前年度に掲げた推進方策である、六角パターン構造に対する印加電圧の効果と外部容量の効果の分離については、印加電圧を正弦波に限定するときには両者の効果は分離できないことがわかったり、これまでは放電系反応拡散方程式の計算結果は実験の傾向を説明できるが実測値と比較することには意味がないものと考えられてきたが、定量的に実験値を説明できる可能性のあることが期待できるなど、着実な進歩があり、実験は予定通り実施できている。 表面波プラズマ励起方式によるプラズマフォトニック結晶の生成においては、真空容器内の減圧環境下で表面波プラズマを生成し、高密度のプラズマの空間的周期構造を作ることを目標としていたが、財源の関係で真空容器を入手できず、見送ることとなった。代わりに、大気圧下での生成について検討しており、ひとまずこれを均一に広面積で生成する研究に着手したが、プラズマが局在化する傾向があり難しい。現在は円筒型マイクロ波プラズマジェットを並列化してプラズマの空間的周期構造を作り、その電磁波透過特性を検証している。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、前年度の研究と並行して、散逸ソリトン周期配列の連続変化の可能性と、フォトニックバンドギャップの制御性を実験的に検証する。散逸ソリトン周期配列の可変化については、六角パターン構造は印加電圧を定めることによって決定し、外部容量は印加電圧を定める役割をすることがわかったが、本研究で調べた結果は電圧波形が正弦波の場合に限定されており、電圧の立ち上がり速度など、他の要因の有無について検討を行う。 実験と数値計算のシナジー効果を期待して、計算上現れる散逸ソリトン生成過程を実験的に検証する必要がある。数値計算の高速化の結果を受けて、これまで計算上の創造物と考えられていた空間構造の時間発展の計算結果が、真実味をおびてきたため、最も難しいとされていた、フィラメントの発現機構、六角構造の起源、という根源問題の解である可能性が出てきた。 また、この理論的研究・解析については、流体モデルへの移行が必要と考えられていたが、一足飛びの飛躍は現実的でなく、段階論に従った戦略が必要と考えられる。すなわち、今回の高速化を受けて反応拡散モデルにおける電圧を交流化し、そのうえで流体モデルとパラメータの整合を取り、非線形項の構造の解析(分岐解析)を行い、フルの流体モデルに至るという方法論を実現させていく必要がある。 表面波プラズマ波励起方式によるプラズマフォトニック結晶の生成については、真空容器の算段が付かないので、現行の円筒型マイクロ波プラズマジェットの並列化について実験を継続する。マイクロストリップラインを用いる方法の検討も行う。また、高周波13.56MHzでの生成を試していないので、施行実験を行う。 BSO 結晶のポッケルス効果による自己組織構造の電荷密度分布測定については、CCDカメラの入手を別財源に求め、継続可能性を模索する。また、斜め入射型については、本研究と別の方向性を持つ研究に展開させる。
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