研究課題/領域番号 |
18K03598
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
畠山 力三 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 名誉教授 (00108474)
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研究分担者 |
權 垠相 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10360538)
美齊津 文典 東北大学, 理学研究科, 教授 (20219611)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | クローン・プラズマCVD / ナノカーボンハイブリッド / カーボンナノチューブ / グラフェン / 原子内包フラーレンン |
研究実績の概要 |
(1)準備研究として工学研究科プラズマ理工学分野の既存実験装置を共用して,プラズマCVD法が短片化されたSWNTからのクローン成長に有効であることの兆候を調査した. 最終的には金属触媒無使用の単一カイラリティSWNTクローン成長を目指しているが, ここでは先ずCo薄膜を形成したSi基板上に, CH4/H2混合ガス放電の低電子温度拡散プラズマを一定時間照射し, SWNT合成を確認した. 続いてその基板上SWNTに再び一定時間拡散プラズマを照射し(パルスプラズマCVD), 元のSWNTが伸長するかどうかに注目した. SEMとTEM観察及びラマンスペクトル解析の結果, パルスプラズマ重畳後に合成されたSWNTは狭い直径(カイラリティ)分布を保持しつつ長さが増加することが判明し, プラズマCVD法のSWNTクローン成長への有効性の兆候が得られた. (2)しかしながら, 工学研究科の実験装置は二次元原子層状物質合成研究の専用機に改造される状況に変わった. 加えて, 本研究課題分担者両名が理学研究科化学系所属であることの利便性を優先し, 基盤(C)の限定された予算枠内の基で, 挑戦的課題に対処すべく最も簡便な新しいクローン・プラズマCVD装置を同化学系内実験室に製作することにした. そこで, CH4等のような気体ではなく液体のアルコールを炭素源として高純度のSWNT合成が可能な”簡便な触媒熱CVD法”と, 低温合成・豊富な活性種を特徴とする”プラズマCVD法”を合体した「アルコールプラズマCVD装置」製作を完成した. (3)RFアンテナの工夫に因り, エタノール(C2H5OH)の蒸気[102 Pa―103 Pa]を効率的に電離して, その拡散プラズマを予め用意された短片化CNTに照射し, 触媒を用いないCNTクローン成長の兆候を現在確認中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)上記[研究実績の概要]項で述べたように, 研究代表者が平成30年4月から工学研究科から未来科学技術共同研究センターへの移動に伴って, これまで使用してきた拡散プラズマCVD装置が工学研究科プラズマ理工学分野の二次元原子層状物質合成専用機に改造される状況に変わった. そこで, 研究代表者・分担者3名とも所属する学内横断組織の学際研究重点拠点「新奇ナノカーボン誘導分子系研究開発センター」(2016-2021)内研究活動の一環と位置付け, 共同研究上の場所的利便性を考慮して, 代表者が所属する未来科学技術共同研究センター近隣の分担者両名が所属する理学研究科化学 系の実験室に, 新しいクローン・プラズマCVD装置を建設することに決断した. しかし, 基盤(C)の予算枠内ではプラズマ生成電源や真空ポンプ等の設備備品を購入できないので, 中古物品を譲り受けて修理・改良する必要があり時間を要したことに因る. (2)この新製作「アルコールプラズマCVD装置」においては, 通常のArやCH4等の純粋な気体原子・分子を10-3 Torr(0.13 Pa)―10-1 Torr(13 Pa)の気圧領域で電離してプラズマを生成するプラズマCVD装置とは異なり, 1 Torr(1.3x102 Pa)―10 Torr(1.3x103 Pa)の領域で液体のエタノール(C2H5OH)の蒸気を効率良く放電しなければならない. アルコールプラズマの生成例は他に見当たらなかったので, 高周波電源からの電力を高効率に給電すべく容量結合と誘導結合の混成RFアンテナ及び整合回路系の開発に時間を要したことに因る. 更に, アルコールが真空ポンプのオイルに溶け込んで真空度悪化を誘発したので, その解決にも時間を要したことに因る.
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今後の研究の推進方策 |
(1)新型アルコールプラズマCVD装置における真空度悪化対策としては, 現在は真空ポンプの頻繁なオイル交換に依存しているが, 予算制約の苦慮の基に“液体窒素トラップ”の装備も視野に入れている. (2)長尺(100 μm オーダー)で高純度の例えば(6, 5)半導体SWNTを酸素プラズマイオンエッチングにより切断する. この短片化されたSWNT(1-10 μm オーダー)が散布されたSi基板をアルコールプラズマ装置に導入し, アルコール蒸気とAr/H2ガスの混合流の下でプラズマ発生RF電力(30-200 W)/放電維持時間と電気炉内周囲温度(300-900 ℃)を変化させて, 金属触媒を使わないSWNTのCVD成長実験を行う. プラズマCVD終了後に装置外に回収された基板上サンプルをSEM・TEM・AFM観測すると共にラマンスぺクトル解析を行い, SWNTのCVD前後の長さの圧倒的差異及びカイラリティの同一性を確認し, アルコールプラズマCVDによるSWNTのクローン成長を実証する. (3)上記の短片化SWNTを単層グラフェン上に一様に点在散布しこれにアルコールプラズマを照射し, (2)と(3)と同様のSWNTのCVD成長実験及び観測・解析を行い, CVD前後で同一のカイラリティを持ち遥かに長くなったSWNTがグラフェン平面に垂直方向に配向成長していることを確認し, “クローン成長SWNT/グラフェン”ハイブリッド創製を実証する. (4)SWNTの極限に短い部分構造を持つカーボンナノベルトを単層グラフェン上に点在散布して, 同様のクローン・プラズマCVD成長実験を開始する. (5)アルコールプラズマCVDによるクローン成長実験に不具合が生じた場合も含めての比較実験の意味で, CH4/H2混合ガス放電プラズマCVD実験開始を常に意識しておく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新装置作製を主眼としたが, 次年度には本格的な内容の実験を遂行するのでナノ物質資料の購入や資料解析費用が大幅に見込まれるので節約し繰り越すことにした次第である. また, 本年度とは異なり次年度には成果発表が期待されるので, 旅費も一部節約繰り越した次第である.
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