研究課題
これまでに名古屋大学内の医工連携の共同研究によりプラズマ活性溶液を発明し、プラズマがん治療の分野において世界を先導する成果を挙げてきた。特にプラズマ活性溶液と名付けたプラズマ照射した溶液によるがんへの殺傷効果を発見し、その分子機構解明に注力してきた。今年度はプラズマ活性培養液(PAM)を投与した脳腫瘍培養細胞とプラズマ活性乳酸リンゲル液(PAL)を投与した脳腫瘍培養細胞の遺伝子発現の違いを調べることにより、PAMとPALの細胞内分子機構の違いを明らかにした。まずは、PAM投与した脳腫瘍培養細胞に対してマイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を行い、約60の遺伝子群がPAMにより2倍以上に遺伝子発現が上昇していることが分かった。そのうち遺伝子発現上昇が特に高いものの多くは、酸化ストレスに応じてアポトーシスを誘導するGADD45シグナル伝達経路に関わる遺伝子であることが分かった。マイクロアレイによる結果を更に検証するためにリアルタイムPCR法によりこれらの遺伝子発現の時間変動を調べたところ、やはり、PAMによりGADD45シグナル伝達経路に関わる遺伝子群の遺伝子発現の上昇が確認された。更にPAL投与した脳腫瘍培養細胞についてもリアルタイムPCR法によりこれらの遺伝子群が上昇するかどうかを調べたところ、PAL投与した脳腫瘍培養細胞ではこれらの遺伝子群において遺伝子発現の上昇は見られなかった。一方で、PAL投与した脳腫瘍培養細胞では生存・増殖シグナル伝達経路に関わる遺伝子発現を抑制していることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究により、PAMは酸化ストレスに応答してアポトーシスを誘導するGADD45シグナル伝達経路を活性化することが新たに分かった一方で、PALはこのシグナル伝達経路を活性化することなく、生存・増殖シグナル伝達経路を抑制することが分かった。これらの実験結果は、薬剤耐性を獲得するがんに対する様々な治療法を提案するのに有用と考えられ、将来、様々なプラズマ活性溶液による細胞内分子機構を解明することにより、様々ながん治療のストラテジーを提供できると期待される。また、本成果はScientific Reports誌へ公表され、プラズマ医療関連の国際会議で発表する等して、世界中で高い評価を受けた。本論文を含む6報の論文公表、8件の海外及び国内招待講演、2件の特許出願を行った。
今後、更にPALによる細胞死に関して活性化されるシグナル伝達経路を探索する。これまでのプラズマバイオの大きな流れとして、プラズマやプラズマ活性溶液により細胞内に酸化ストレスを誘導し、それに対する細胞応答として、細胞死などを含む様々な現象を説明することが多く行われたきており、PAMによる脳腫瘍培養細胞の細胞死に関しては、主要な遺伝子発現の変化を見る限りでは、酸化ストレスに対する応答で説明できる部分が多い一方で、PALによる脳腫瘍培養細胞の細胞死に関しては、酸化ストレスに対する応答では説明できない部分が多い。事実、PAM処理された脳腫瘍培養細胞とPAL処理された脳腫瘍培養細胞の細胞内ROSを調べたところ、PAMの方がPALよりも脳腫瘍培養細胞に対して多くの細胞内ROSを誘導するという実験結果を得ており、PALによる細胞死は酸化ストレスではないシグナル伝達経路を活性化している可能性が考えられる。これまで報告されたシグナル伝達経路や未知のシグナル伝達経路も視野に入れ、今後、PALが脳腫瘍培養細胞に及ぼす細胞内分子機構を更に解明してゆきたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 13件、 招待講演 7件) 産業財産権 (2件)
Scientific Reports
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