研究課題/領域番号 |
18K03601
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
竹田 圭吾 名城大学, 理工学部, 准教授 (00377863)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 吸収分光 / プラズマ / 原子状ラジカル |
研究実績の概要 |
令和2年度は、水素とヘリウムの混合ガスを用いたマイクロ放電ホローカソード光源(MHCL)内で生じる自己吸収現象の更なる理解を目的に、まずプラズマ光源内で生成される水素原子密度の分析を試みた。真空紫外レーザー吸収分光計測により水素原子の密度と温度が既知のプラズマ源に対し、MHCLを用いた真空紫外吸収分光計測を行うことで光源内の水素原子の発光スペクトルの形状が同定でき、本手法によりMHCL内の水素原子のLyman α線(波長121.56 nm)のスペクトルは、原子温度が約300 Kのドップラー広がりとその1.5倍のローレンツ広がりを合わせ持つフォークト型であると判明している。この結果をもとに自己吸収現象が生じたMHCLを用いて計測された誘導結合型水素プラズマ内の水素原子による光吸収率から光源内の水素原子密度を見積もった結果、水素分圧の上昇に伴うMHCL内の水素原子の密度上昇には一定以上の水素分圧で飽和傾向がみられたが、さらに水素分圧を上昇させることで飽和状態から約2.7倍程度に密度が急激に上昇した。 以上の結果は、ある一定の条件ではMHCL内の水素原子密度には上限値が存在するものの、更なる水素分圧の上昇はプラズマ状態を大きく変化させ、より高密度な状態を作り出せることを示唆するものであり、この現象を利用することで自己吸収光源の制御範囲の更なる拡大が期待できる。 また本研究では上記に加え、MHCLの自己吸収度の上昇に伴って観測される水素原子による光吸収率の減少傾向に対する水素原子の並進温度による影響を昨年度から引き続き解析するとともに、同条件下における水素原子のプラズマ生成装置内での反応計測を実施し、原子温度を基にした両結果の相関性を考察した。その結果、更なるデータの蓄積と考察は必要であるものの、それらの関係には一定の理論的な説明が可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではこれまでに、水素原子の真空紫外吸収分光計測に使用された実績のあるマイクロ放電ホローカソード光源(MHCL)をプラズマ光源とした実験に取り取り組み、MHCL内の電極配置など内部構造を最適化することで、測定対象の水素ガスプラズマ内部の水素原子による吸収を含まずにスペクトル近傍のバックグラウンド吸収のみを計測できるまで、光源内の水素原子の発光スペクトルの自己吸収の度合いを高めることに成功している。更には、発光スペクトルの自己吸収度の制御により、水素原子の並進温度の変化を検出できる可能性も示すことに成功している。そして、令和2年度においては、これまでと同様に、プロセスプラズマ内の水素原子の真空紫外吸収分光計測のための自己吸収光源の更なる改良と最適化を目指し、光源内部で生じる自己吸収現象の更なる理解のための光源内の水素原子量の計測や、自己吸収光源を用いた水素原子の並進温度計測をプロセスプラズマに応用するうえで必要となる計測精度の検討を行い、上記目的を達成するうえで重要な実験結果や知見の集積に成功している。また、水素と窒素の混合ガスプラズマやパルスプラズマなどの実計測に近いプラズマ内部の水素原子の計測にもチャレンジしている。 しかし、自己吸収光源を用いた真空紫外吸収分光法による原子状ラジカル並進温度計測をさらに発展させるためには、より多くの実験データ収集を収集し、光源内の自己吸収度の変化に伴う、原子の発光スペクトル形状の変化をより詳細に把握する必要がある。これを達成することで計測技術の更なる高精度化が実現でき、多くの様々なプロセスプラズマへの応用が可能となると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、水素原子の発光スペクトル(ライマンα線:波長121.56 nm)に着目し、真空紫外吸収分光時の水素原子の遷移線近傍のバックグランド吸収の補正と、水素原子の並進温度計測に使用するための自己吸収光源を構築し、実プロセスに応用することを目的としている。 これまでの理論的な計算および実験結果を通じて、自己吸収光源を用いた水素原子の並進温度計測には、光源内の更なる自己吸収現象の理解とともに自己吸収スペクトルの形状の詳細な把握が必要であることが判明している。 そこで令和3年度は、真空紫外レーザー吸収分光システムを用いて、引き続き測定対象となる水素ガスを用いたプラズマ内の水素原子の吸収プロファイル計測を試み、可能な限り多くの条件における測定対象プラズマ内の水素原子の密度および温度のデータを収集する。そして、自己吸収を制御したマイクロ放電ホローカソード光源を用いた真空紫外吸収分光法により、光源の自己吸収度の上昇に伴って減少する水素原子による光吸収率の傾向を計測し、光源のスペクトル自己反転(自己吸収)度を分析する。これを水素原子の密度・温度状態の異なる各測定対象プラズマに対して繰り返し行うことで、より詳細に自己吸収スペクトルの形状を把握にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題で開発した自己吸収光源を用いた原子状ラジカルの真空紫外吸収分光計測技術は、より多くの実験データ収集を収集し、光源から放出される原子の発光スペクトル形状の変化をより詳細に把握することで、計測技術の更なる高精度化が実現でき、多くの様々なプロセスプラズマへの適用が可能となると期待される。以上の研究課題は、本研究を進めるなかで令和2年度後半に新たに出たものであり、これまで得られた成果を更に充実させるため遂行すべきものであると考えた。そこで本研究において上記に関する追加実験を計画し、遂行しようとしたものの、時期が令和2年度後半であったため準備期間が十分ではなく、次年度へ繰り越さざる負えない状況となり、その追加実験での使用を想定していた物品の購入費も繰り越すこととなった。 繰り越しした助成金については、計画通り追加実験に使用する有機溶媒や色素など薬品の消耗品の購入費に使用する予定である。
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