研究課題/領域番号 |
18K03604
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
清水 鉄司 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (70803881)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低温大気圧プラズマ / プラズマ医療 / 活性種 / 誘電体バリア放電 / 活性種輸送 / 気液界面 / 殺菌 |
研究実績の概要 |
本研究では、医療分野における大気圧プラズマ照射溶液の利用を加速するため、これまでに研究を行ってきた投入電力の変化による気相中の活性種制御技術を用い、新たな溶液中における活性種分布制御手法の開発を目的としている。 本年度は、誘電体バリア放電電極を用い低温大気圧プラズマを溶液に照射する際、溶液の一部を液滴状にすることによって、プラズマガス・溶液間の接触表面積を変化させ、投入電力を変えることによる気相中活性種の制御と組み合わせて、液相中の活性種制御を試みた。以下に得られた成果を記載する。 1)昨年度までに制作したプラズマガスを閉じ込める密閉可能な容器の下部に、超音波振動子を用いたネビュライザ―を設置し、プラズマを溶液に照射する際に溶液の一部から液滴を生成する装置を製作した。液滴直径は10ミクロン程度であり、気相中に長時間存在できる。気相中の活性種を評価するために、気相中のオゾンを紫外線吸収分光装置を用いて測定した。その結果、液滴の存在にかかわらず、プラズマ投入電力を0.8から2 Wまで変化させることにより、気相中の主な活性種がオゾンが主であるモード(オゾン濃度が1500-2000 ppm程度)から酸化窒素などの活性窒素種が主であるモード(オゾン濃度がほぼ0 ppm)まで制御できることがわかった。 2)上記1)のプラズマ源を用い、蒸留水に対してプラズマ照射を行い、プラズマ照射溶液を生成した。溶液中のオゾンなどの活性種は紫外吸収分光を用い測定した。液滴が存在しない場合、液相の活性種は気相中の活性種分布に従い制御出来た。液滴が存在する場合も気相中活性種分布に従い変化させることができた。液滴のある場合、ない場合と比較してわずかに溶液中のオゾン濃度が増えることが分かった。溶液を液滴状にすることにより、気相から液相への溶解プロセス(速度など)が変化した可能性があり、詳細を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度までに制作した誘電体バリア放電プラズマ電極システムにネビュライザを追加し、溶液の一部を液滴状にして気相中に分布させる装置を製作した。気相中の活性種としてオゾンを計測した結果、液滴の存在にかかわらず、オゾンが活性種の主となるモードから、酸化窒素が主となるモードまで自在に変化させることができることを示した。このシステムを用いて溶液中の活性種制御を試みた結果、液滴の有無にかかわらず液相中の活性種分布を制御できることを示した。液滴の有無により、わずかに溶液中の活性種濃度が変化していることから、気相中の活性種の液相への溶け込みなどが変化していると考えられ、現在そのモデリングを行っている。 また、このプラズマ照射溶液を用いて最近の不活化実験を行う予定で、最終年度はこの実験を早急に進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本年度までに得られた成果をもとに、溶液中の活性種分布制御技術の最適化をさらに図る予定である。溶液中の活性種分布制御に対する液滴の影響を観察するため、液滴径の大きさを変化させる、液滴生成の溶液量に対する割合を変化させるなどして、本年度以上に制御幅の広い溶液中の活性種分布コントロール手法を確立を目指す。 また、溶液中の活性種溶解および生成のメカニズムの解明を図りたいと考えている。具体的には、テレフタル酸を化学プローブとして用いOHラジカルの測定やメチルオレンジなどのpH指示薬及びインジゴカルミンなどを用いて、溶液中の長寿命ラジカル及び短寿命ラジカルの挙動を観察する。この観察から、プラズマガス・溶液間の化学反応・溶解モデルの構築を目指す。 さらに、殺菌実験を行い、溶液中の活性種と殺菌効果の関係を調査し、殺菌効果の最も強い条件を探索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に製作・試験した装置の一部を自作したため、予定よりも使用額が減少した。余剰分は次年度に繰り越す。次年度は予定通りに研究を実施し、繰り越し分は主に消耗品に充当する予定である。
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