研究課題/領域番号 |
18K03605
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 勝一 東北大学, 理学研究科, 准教授 (60332590)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ハドロン / 量子色力学 / 格子ゲージ理論 / 核子構造 / 陽子サイズのパズル / 中性子寿命のパズル / 陽子スピンのパズル |
研究実績の概要 |
本研究では核子の構造を特徴づける物理量である核子形状因子の理論計算を縮退した軽いアップ・ダウンクォークと、それらよりも重いストレンジクォークの真空偏極を取り入れた、2+1フレーバー格子QCD計算により行なった。これまで、HPCI戦略プログラム分野5の下で生成されたゲージ配位(HPCI配位)を利用した我々の研究により、格子QCDでは陽子電荷半径を含む核子の大きさに対する実験結果を再現できないという長年の問題に対する一応の決着を見た。しかし最近の実験で指摘されている4%程度の差異に由来する「陽子電荷半径に対するパズル」の解明に至るほどの計算精度は得られなかった。そこで当該年度は、PACS Collaborationの下、スパコンOakforest-PACSを用いて生成されたゲージ配位(PACS10配位)を利用した格子QCD計算を行った。HPCI配位は物理点近傍(π中間子質量が146MeV)でかつ核子間相互作用が計算可能なほど大きな空間サイズ(一辺8.1fmの立方体)で生成されたが、PACS10配位は、さらなるパラメータの微調整により物理点直上(π中間子質量が135MeV)で、かつ空間サイズも25%増大(一辺10.8fmの立方体)して生成されている。格子上では取り得る運動量が空間サイズの逆数で量子化されるため、PACS10配位はHPCI配位に比べ、さらに空間サイズが大きくなったことで低運動量領域の核子形状因子の情報に、より重点的にアクセスできる。平均二乗半径は、核子形状因子のゼロ運動量における傾きから決まるため、PACS10配位の計算では核子の大きさに対してより高精度の計算が可能となった。格子QCDによって核子の大きさを含む核子構造に関係する基本的な物理量(電荷半径、磁気モーメント、磁気半径、軸性電荷、軸性半径)が統計精度2-7%のレベルで再現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度前半までにPACS CollaborationによりPACS10配位の生成が終了したため、それを利用した核子構造の格子QCD計算も当該年度中に完了し、その研究結果はすでに論文としてまとめてPhysical Review Dに投稿し、当該年度中にその論文の雑誌掲載も行われた。並行して、ヤン・ミルズ勾配流法を応用したエネルギー・運動量テンソル演算子の構成に関する基礎的研究も着実に進めている。
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今後の研究の推進方策 |
実験で指摘されている4%程度の核子の大きさの差異を識別可能なレベルの精密測定(統計誤差1-2%以下のレベル)を目標として、引き続きPACS10配位利用による格子QCD計算を継続して行う。さらに現在PACS Collaborationにより異なる格子間隔のゲージ配位の生成が行われており、順次その2つ目の格子間隔による格子QCD計算も実施することによって、有限格子間隔による系統誤差の見積もりも今後行っていく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張を取りやめたため、次年度使用額が生じた。次年度に繰り越した分は、出張旅費として使用予定である。
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