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2020 年度 実施状況報告書

初期宇宙論から迫る素粒子標準模型を超える物理

研究課題

研究課題/領域番号 18K03608
研究機関東京大学

研究代表者

諸井 健夫  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60322997)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード暗黒物質 / 超対象模型
研究実績の概要

今年度は(1)スピン励起を用いた暗黒物質探査手法の提唱、(2)GeVよりも軽い長寿命粒子に対するビッグバン元素合成からの制限の研究、(3)真空崩壊率計算の精密化、(4)インフレーションを引き起こすスカラー場崩壊起源の新たな暗黒物質生成機構の提案、というテーマについて、それぞれ新たな知見を得ることができた。
(1)アクシオンや暗黒光子と呼ばれる新粒子が暗黒物質となる場合について、スピン励起を用いたこれら暗黒物質の検出について研究を行なった。スピン励起が存在する物性系においては、スピン励起がこれらの粒子と結合する。本研究では暗黒物質をスピン励起に転換することで暗黒物質探査を行う可能性を指摘し、それによりこれまで探査が行われていないパラメータ領域において暗黒物質探査が可能であることを示した。
(2)これまで詳細な研究がなされていなかったGeVよりも軽い長寿命不安定粒子について、ビッグバン元素合成に与える影響を研究した。特にその粒子が光子対、電子・陽電子対などに崩壊する場合について、崩壊の結果引き起こされる軽元素の光分解の効果を詳細に研究し、軽元素量の観測値と矛盾しないパラメータ領域を明らかにした。
(3)真空崩壊の崩壊率への1ループの輻射補正について、特に崩壊を生じさせるbounceと呼ばれる場の配位に対して複数の場が寄与する場合のゲージ不変な計算を可能にした。
(4)本研究では、インフレーションを引き起こす場の崩壊によって暗黒物質を生成する新たなシナリオを提案した。特に、暗黒物質がボソンである場合、誘導放出の効果で暗黒物質量が大きく影響を受ける可能性を指摘するとともに、そのような場合の暗黒物質量は量子論に時間発展を解いて得る必要があり、古典的ボルツマン方程式を解いて求める方法は定量的に異なる結果を与えることを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究の主軸となる研究は、(1)ビッグバン元素合成に基づく素粒子標準模型を超える物理の研究、そして(2)電弱真空の安定性に基づく標準模型を超える物理の研究である。
研究実績の概要の欄に記入した通り、ビッグバン元素合成に基づく素粒子標準模型を超える物理の研究に関してはGeVよりも軽い長寿命粒子に対するビッグバン元素合成からの制限を明らかにし、これまで知られていたよりも信頼性の高い制限を得ることができた。また、電弱真空の安定性についての研究においては、これまで知られていなかった複数の場がbounce配位に寄与する場合について、真空崩壊率のゲージ不変な計算手法を確立した。
また、昨年度から開始した暗黒物質探査の新たな手法の提唱の研究に関しては、スピン励起を用いてアクシオン的粒子あるいは暗黒光子が暗黒物質となる場合の暗黒物質探査が可能となることを指摘することができた。さらに、インフレーションを引き起こすスカラー場の崩壊から暗黒物質生成が起こる新たなシナリオも提案できた。これらは素粒子論的宇宙論分野に新たなアイデアを提供する、インパクトある業績と考える。
以上から、研究計画にあるビッグバン元素合成に関する研究、そして電弱真空の安定性に関する研究は予定通り成果を上げていると共に、それ以外の業績もあげることができた。従って、本研究は当初の計画以上に進展していると判断する。

今後の研究の推進方策

研究最終年度となる2021年度は、2020年度までに行ってきた研究に基づき研究を発展させる。
本研究計画の主軸のひとつであるビッグバン元素合成に基づく標準模型を超える物理の研究は、2020年度までに目的としているレベルの研究を完成させることができたが、さらに新たな可能性を探り、研究発展の可能性を探る予定である。
もうひとつの主軸である電弱真空の安定性に基づく標準模型を超える物理の研究については、2020年度までに真空崩壊率計算のための一般式を導出することに成功している。そこで求めた一般式は様々な模型に適用可能であり、2021年度はそれをいくつかの具体的模型に適用し、電弱真空崩壊から模型に対してどのような制限が与えられるかを明らかにする予定である。特に超対称模型においては、カラーや電荷を破る真空が現れる可能性があるため、そういった場合における電弱真空の崩壊率を計算し、可能なパラメータ領域についての知見を深める予定である。
また、新たに研究を始めた暗黒物質探査の新たな手法というテーマについては、今年度も研究を行う予定である。このテーマは今後発展が期待されるテーマであり、物性系を用いることにより、これまで探査不可能と考えられてきたパラメータ領域での暗黒物質探査が可能となる可能性を秘めている。今年度も引き続きこのテーマについての研究を進める。特にマグノンや物性系アクシオンを用いた暗黒物質探査の可能性について、それらの性質や暗黒物質との相互作用の仕方など、理解されていない部分が多い。それらを明らかにしつつ、どのような物性系を用いるのが暗黒物質探査にとって有用であるかについて研究を進め、新たな手法を模索し、今後の研究発展の基礎となるようなアイデアを探る。

次年度使用額が生じた理由

2020年度には複数の国内外の出張(国際会議を含む)を予定していたが、コロナ感染拡大のためそれらの出張を行うことができなかった。このため、次年度使用額が生じた。これについては2021年度に類似の国際会議参加・研究者招聘などに使用する計画である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Light dark matter from inflaton decay2021

    • 著者名/発表者名
      Moroi Takeo、Yin Wen
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 2021 ページ: 301

    • DOI

      10.1007/JHEP03(2021)301

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Particle production from oscillating scalar field and consistency of Boltzmann equation2021

    • 著者名/発表者名
      Moroi Takeo、Yin Wen
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 2021 ページ: 296

    • DOI

      10.1007/JHEP03(2021)296

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Detecting light boson dark matter through conversion into a magnon2020

    • 著者名/発表者名
      Chigusa So、Moroi Takeo、Nakayama Kazunori
    • 雑誌名

      Physical Review D

      巻: 101 ページ: 096013

    • DOI

      10.1103/PhysRevD.101.096013

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Big-bang nucleosynthesis with sub-GeV massive decaying particles2020

    • 著者名/発表者名
      Kawasaki Masahiro、Kohri Kazunori、Moroi Takeo、Murai Kai、Murayama Hitoshi
    • 雑誌名

      Journal of Cosmology and Astroparticle Physics

      巻: 2020 ページ: 048~048

    • DOI

      10.1088/1475-7516/2020/12/048

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Precise calculation of the decay rate of false vacuum with multi-field bounce2020

    • 著者名/発表者名
      Chigusa So、Moroi Takeo、Shoji Yutaro
    • 雑誌名

      Journal of High Energy Physics

      巻: 2020 ページ: 006

    • DOI

      10.1007/JHEP11(2020)006

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Bounce from Gradient Flow2020

    • 著者名/発表者名
      Takeo Moroi
    • 学会等名
      ICNAAM 2020
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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