本年度は、スーパーノバから放出されるアクシオンを加速器検出器を用いて検出する可能性の研究、およびμ粒子異常磁気能率のアノマリーを説明できる超対称素粒子模型における電弱真空の安定性に関する研究を行なった。 (1)強い相互作用問題がPeccei-Quinn対称性によって解決される場合、アクシオンと呼ばれる極めて軽い粒子が現れる。アクシオンは素粒子標準模型を超える物理の重要な可能性のひとつであり、その検出について様々な方法が提案されている。スーパーノバからは多量のアクシオン粒子が放出される可能性がある。本研究では、地球近傍でスーパーノバが起こった場合、既に存在する加速器検出器を適切に運用することで、アクシオンのシグナルを検出できる可能性があることを指摘した。 (2)μ粒子異常磁気能率のアノマリーは、素粒子標準模型を超える物理の存在を示唆するものとして、極めて重要である。超対称模型においては、超対称粒子によるループ効果によってμ粒子異常磁気能率が補正を受け、μ粒子異常磁気能率のアノマリーの問題が解決される可能性がある。我々はそのようなシナリオにおいては電弱真空の不安定性が引き起こされる可能性があることに着目し、電弱真空の崩壊率を1ループの効果まで含めて世界で初めて計算した。そして、その結果をもとに、スカラーミューオン粒子の質量上限を得た。 研究期間全体では、当初の目的であったビッグバン元素合成に基づく標準模型を超える物理の研究、そして電弱真空の安定性に基づく標準模型を超える物理の研究について、それぞれ成果をあげるとともに、それらの研究から派生した加速器現象論や暗黒物質の物理に関しても、成果をあげることができた。
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