本研究計画では、 3 次元宇宙初期密度揺らぎを様々な時刻、様々な位置で推定し、その時間発展を可能な限り直接再構築することを研究目的とする。これまで、観測的宇宙論の主要な情報源として統計的なパワースペクトルとその時間発展が用いられてきたが、本研究では統計量を用いないことでコスミックバリアンスを越えた宇宙論を展開する点に特色がある。
最終年度では、これまで開発してきた、遠方銀河団を通過してくるCMB光子の偏光の情報を用いる方法に加え、我々が直接観測するCMBの温度およびE-mode偏光の大角度スケールの揺らぎを解析に加えることにより、暗黒エネルギーの状態方程式パラメータへの制限に対してどれくらいの制限感度の向上が期待できるかについて解析を行った。その結果、状態方程式パラメータへの制限が18パーセント程度改善することが分かった。
研究実施期間全体を通した概要は以下の通りである。実施期間前半は、ダークマターN体シミュレーションデータを元に、初期3次元密度揺らぎの再構築を行う研究を更に進めた。ガウシアンプロセスが上手く行かなかった結果を受けて様々な他の手法を試すことにより、D'Agostino's K-squared testという非ガウス性の検定を上手く用いることにより、初期3次元密度揺らぎを再構築することが可能であることを見出した。具体的には、密度揺らぎができるだけガウス分布に従うように、重力による成長を引き戻すことによって初期の3次元密度揺らぎを再構築するという方法であるが、この方法では、十分な精度が得られないことが分かった。一方、実施期間の後半では、銀河団偏光観測を通じた、宇宙の歴史の各時刻における四重極温度揺らぎの時間発展を推定することにより、コスミックバリアンスに依存しない宇宙モデルの検定が可能であることを示すことができた。
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