研究課題/領域番号 |
18K03617
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
延與 佳子 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40300678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クラスター構造 / 不安定原子核 / モノポール遷移 / 非弾性散乱 |
研究実績の概要 |
軽い原子核における、monopole励起、isoscalar型とisovector型のdipole励起について、特に低エネルギーの励起状態の性質を解析することによって、核子多体系の励起モードを調べた。低エネルギーに現れる特徴的なモードにおいて、クラスター、変形などの多体相関がどのように寄与するかに焦点をあてた。陽子数・中性子数の異なる不安定原子核において、余剰核子と芯原子核の運動により現れる新しい励起モードを探るために、isospinの性質をscalar, vectorの2つのタイプに分けて解析した。 理論的手法として、低エネルギーの多様な励起モードを記述するための模型として、shifted basis AMD法を開発し、クラスターGCMと合わせることで1p1h励起モードとクラスターモードを同時に取り込んだ計算が可能となった。この手法を用いて12C,16O,10Be,12Be,18Oのクラスター励起とdipole励起状態を計算した。これらの原子核は基底状態にクラスター構造によって内部変形をもつ。valence neutron oscillation mode, トロイダル、クラスターモードが共存して出現するという理論的予言を行った。これらのモードは、微小振動モードとして理解できる一粒子励起と、クラスター相対運動の大振幅モードという2つの特徴をもつことを明らかにし、励起強度や遷移密度に違いが見られることを示した。 初年度の段階で、遷移強度の計算は完了し、非弾性散乱の反応計算に入力できる数値データを出力する計算プログラムを完成している。構造模型で計算した入力データを使って、結合チャネル模型の反応計算プログラムで計算したところ、計非弾性散乱の断面積の実験データを再現できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反応計算のプログラムは阪大の緒方氏から提供を受けた。このプログラムに入力する構造模型の計算データとして、基底・励起状態の密度と、各状態間の遷移密度を計算する必要があり、そのための計算プログラムは完成した。shifted AMDやクラスターGCMの計算では、数百の基底の数の波動関数を重ね合わせる必要があり、そのように記述された状態間の遷移密度を各距離の点で計算するには大規模な数値計算が必要である。基礎物理学研究所のスーパーコンピュータで計算するために、計算コードの移植とパラレル化を行い、大規模計算が実現できるようになった。 現在のところ、Be同位体、C同位体、O同位体の構造計算について、遷移密度の計算が完了した。これらの出力結果を入力データとして反応計算を行ったところ、測定されている実験データが再現できることがわかった。特に16Oについて微視的構造模型に基づく非弾性散乱断面積の理論計算は初めての成果である。これらのについて成果をまとめ、論文を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
不安定核での陽子非弾性散乱(p,p')とα粒子非弾性散乱(a,a')について研究を進めていく。比較的実験データの多い陽子非弾性散乱を優先的に進め、観測データのある原子核について構造計算と反応計算を行い断面積の解析を行う。ここまでの解析で、陽子非弾性散乱は、α粒子と比べて、結合チャネルの効果が小さいことがわかった。このため、多段階過程に寄与する励起状態間の遷移密度の詳細によらず、基底状態からの直接遷移によって励起状態の構造を調べることができる。 (p,p)反応の解析と並行して、α粒子非弾性散乱の断面積の結果を調べ、両者を比較することによって、励起モードにおける陽子・中性子の差が非弾性散乱でprobeできるかどうかを検討・調査する。dipole励起状態を見つける探索実験において、どのprobeが適しているかを調べて実現可能な実験でのfeasibilityの議論を行い、今後の実験計画に貢献する。 上記のようなα粒子や陽子の非弾性散乱反応は標的原子核の励起状態を調べる方法として有効である。別の観点として、α粒子の弾性散乱の理論計算を行い、「標的原子核+α粒子」の全系としてのαクラスター励起状態の研究も進める。具体的には10Be, 12Cの遷移密度を用いて、10Be+α、12C+αの弾性散乱の反応計算を、結合チャネル模型に基づいて行う。14Cおよび16Oの励起状態に予言されている10Be+α、12C+αクラスター状態が、弾性散乱の断面積にどのような共鳴状態として現れるかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度において、予想以上に研究が進んでいるため、研究の進捗状況に合わせて効率良い研究推進のために計画の修正を行い、論文執筆を先に行った上で、発表した内容を次年度の国際会議で成果発表することに計画を変更したことが理由である。 12Cと16Oのα非弾性反応の解析結果と論文を当該年度に発表済みである。この研究成果をさらに発展させた研究成果を、次年度の9月にイタリアで行われる国際会議での講演として発表する予定であり、その旅費にあてる。非弾性反応によるクラスター状態探索の実験計画が進んでいる状況なので、今後の実験計画に具体的に貢献する上でも重要な計画変更である。
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