研究実績の概要 |
安定原子核、不安定原子核の低エネルギー励起モードの理論研究を系統的に進めた。特に、14Cのクラスター励起、Mg, Siなどのsd-shell原子核の基底状態回転体、10Beや酸素同位体のmonopole, dipole励起状態の研究をAMDなどの微視的構造計算によって進めた。 微視的な構造計算によってこれらの原子核のdensityおよびtransition density計算し、励起モードの特徴を解析し、アイソスピンモードの特徴を解明した。得られたdensityをinputにして、微視的な反応計算を行い、陽子非弾性散乱、α非弾性散乱の計算を系統的に行った。微視的反応計算では、Melbourne g matrixを用いたcoupled-channel反応計算を用い、多様な原子核の(p,p'), (alpha,alpha')散乱に適用し、観測された断面積が見事に再現できることを確認した。従来の計算で問題となっていたmissing monopole問題も解決し、monopoleやdipole励起状態への断面積の定量的な議論ができる準備が整った。安定原子核での既存の実験データでの検証に加えて、さらに不安定核として、Be, C, O同位体の陽子非弾性散乱にも適用し2+状態への遷移強度について中性子と陽子の寄与(Mn/Mp ratio)を議論することで、反応の断面積から構造の情報を引き出すことに成功した。一連の研究において、(p,p')散乱, (alpha,alpha')散乱を同じ反応理論の枠組みで統一的に議論できることが明らかになった。この手法では、エネルギー依存性や標的原子核の質量数について、反応計算における不定性がなく、データの少ない未知原子核にも適用可能であり、定量的な予言値を与えることができる有用な手法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、安定原子核、不安定原子核の低エネルギー励起モードの理論研究を系統的に進めた上で、構造で計算した結果をinputに反応計算を行い、観測された断面積から構造について定性的な情報を得ることが当面の目的であった。構造計算において、He,C,O同位体の計算が予想以上に進んでいる。特に低エネルギーの回転帯に加え、高いクラスター励起状態を系統的に記述することに成功しており、新しい励起モードの理論的予言を行った。 これらの微視的な構造計算によって求めたdensityおよびtransition densityをinputにして、微視的な反応計算を行い、陽子非弾性散乱、α非弾性散乱の計算を系統的に行った。微視的反応計算では、Melbourne g matrixを用いたcoupled-channel反応計算を用いたところ、多様な原子核の(p,p'), (alpha,alpha')散乱の断面積を定量的に再現できることを検証した。p-shellだけでなくsd-shellの断面積データを系統的に再現できたことは予想以上の成果である。さらに不安定核の陽子非弾性散乱に適用し、2+状態への遷移強度について中性子と陽子の寄与(Mn/Mp ratio)を評価するという成果があげられた。一連の研究において、(p,p')散乱, (alpha,alpha')散乱を同じ反応理論の枠組みで統一的に議論できることが明らかになったことは重要な成果であり、不安定原子核の多様な励起モードへの適用を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
核子多体系の本質的理解を目指すことを目的に、原子核の励起モードを調べる。特に、低エネルギーに現れる特徴的なモードと、isospin property(isoscalar & isovector)に注目し、不安定原子核における新しい励起モードの理論的解明を行う。 クラスター、変形などの多体相関が励起モードにどのように反映するかを調べるために微視的な構造計算を行う。開発したshifted basis AMD法とクラスターGCMと合わせることで、平均場の上でのシンプルな励起モード(一粒子一空孔)とクラスターモードを同時に取り込んだ計算が可能となった。この手法を不安定原子核の励起状態の計算に適用する。 励起モードを観測で検証するために、陽子および中性子非弾性散乱の断面積をprobeにして、励起状態の構造を調べる。非弾性散乱実験は安定核・不安定核で進展しているが、反応計算の不定性を減らすことが重要であり、反応計算手法の発展が切望されている状況である。本研究によって、反応-構造を連携させた微視的反応計算を進展させる。 特にクラスター励起状態の探索に有効なα非弾性散乱への適用を進める。これまでの反応計算では、missing monopole(断面積が課題評価される)問題など断面積が計算で再現できないなど、定量性の点で反応計算に問題があったが、最近、Melbourne g matrixでこの問題が解決できることがわかった。この相互作用は現実的核力に基づいて作った有効相互作用で、相互作用におけるreal, imaginaryの密度依存性、エネルギー依存性が含まれており、fitting parameterなしにp, alpha散乱を再現できることを安定原子核の既存のデータで確認した。この反応計算を不安定核反応に適用する。
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